社会不適合なまいむちゃんのそれっぽいブログ。
boaいいよboa。
とか言ってみたりする。無論ビッチの方ではない。バンドの方です。いいよとか言いつつこのレインのOP以外の曲は知らないのだが。


まぁね、とりあえず脚本が小中千昭と見た時点で詳しい人は、神話…か、とかファンタジーのジュブナイルか、とかパソオタ系か、とか思うのですが、まぁその通りです。とりあえず中身は酷くぐろい。表現は妙に生生しく、一見では理解し難い。

玲音(れいん)の住む現実の世界、レインの居るネットワークの発展した姿ワイヤード。接触しあう世界、常にどちらもが存在しているそういう混沌とした具合がかなり気持ち的にやられる。あっというようなアクションはない。恋物語もうっすらとしかない。人が期待するような事がほとんどない。しいて言うならレインが可愛いくらいである(個人的意見です)

これは説明がほんとし難い作品。とっても良くもあるし酷く退屈でもある。ホラー系ではないとは思うんだがかなりトラウマな話だし。解釈難しいし。でも妙にその中身に共感というか何か奇妙なリアルを感じる。

まぁともあれ見てくれよって感じだな。ネタバレを避けつつ説明するととことん何がなにやらな説明になったわwwすまん、そこまでのスキルはない。っても雑誌の基本はネタバレによる期待感を煽るところがあるわけだし比較するもんでもないか。

どうでもいいが妙にレインの髪型やら性格やらが好みだなぁとか思ったら昔惚れたのに似ているからでした。それ抜きに(出来てるのかどうかは知らんが)してもショートのあのくらいのとか好き。


http://www.nicovideo.jp/watch/sm269842


いや、特にこれといってあげる気もないがふと見たら全部ツンデレだったのでああなぁと。っていうかそもそもウィキでもツンデレ役者だとか呼ばれてたし。

凄くどうでもいい話。それ以前にネタがなし。
いやぁね、疲れて疲れて家に帰って飯食って九時に寝たのはいいさ。てっきり起きる時間は6時かなと思ってた。ってか疲れてたんだからそのぐらい寝ろよと、わしの体休めよと。

でも何故1時半に起きるのか。なにゆえって何故って書いてもいいのになんで毎回なにゆえって書いて何故なんだろう。そっちの表現の方が好きだな。なぜにとかは日常で良く使うが。まぁ、取り敢えず4時間半か8時間睡眠しか出来ないのかと。もっと寝ろよ。湯船浸かってないんだから寝て回復しろやと。

お前が忙しいのは仕事の所為でなくパソコンの所為だろと。三つも四つも不定期アマチュアとは言え小説なんか書いてるからだと。ネトゲとかドラクエとかKH2FMとかやってるからだと。サムライチャンプルーとかやってるからだと(飽きたので売ります。今回はやけにストーリーが糞というか絵がキモイし)でもカウビの追憶のセレナーデ?タイトル忘れたが欲しいと。何しろ最近の声優さんも入ってくるらしいから買うと。折笠富美子とか買うと。

クーラーもない安モーテルでシャワーのお湯が途中で止まるとか、ではないがドラクエ7が途中で止まると。ってかそろそろDVDクリーナーと。でもそれでもいかん気もすると。レベル2上げストーリー中盤まで行ってバグるとか危険すぎる。っていうかレベル13辺りの地帯までキーファが旅人の服とか危険すぎる。拾い物もらい物で冒険し過ぎ。でもキーファ…先を知っててもまたやりたくなるゲームはやはり良作。ドラクエの7は敬遠されとるけどわしは好きだな。

ドラクエはやったことない人もOKというかマリオRPGネタは懐かしすぎる。マリオと旅に出ようドラマを作ろう。でも改造マリオシリーズはドラマを作り過ぎ。孔明は長生きし過ぎ。

ドラクエはストーリーどうのよりもやり込みとか無視して5が一番分かり易く簡単なシステムで楽しめるから始めての人には5からオススメする。モンスター仲間システムあるし職業がないからあれこれ悩まなくていい。結婚してない人は出来るwww

7は取り敢えず慣れてても初めての時に100時間は軽く表だけで掛かるから長くやってたい人におすすめよ。小さいストーリーのそれぞれが中々オモロイし、時々で仲間の意見が聞けるからね。マリベルぐらい色気の無い女はそして好み。

で、寝る時間の話からドラクエの話まで飛んだ訳だが、大体長く人と話すと元のしたかった話はとんでこういう話に落ち着くよね。よねって人はどうだか知らんが。ヨネスケ。どうも世代的に味のIT革命よりも奥さんこの肉じゃが作り置きですか?それにしては素晴らしいですね。の方が好きなわけ。

ナントカなわけ、とか言うとどうにも年齢的にナメ猫を思い出すわけ。ナメクジ猫。つまりアリスSOS。アリス探偵団(だっけ?)の方ではないわけ。男は狼なのよ〜キオスク高い〜♪あ、歌詞大嘘吐いた。


S・O・S!!

ところで歌詞大嘘と言えば偶になんとなくで曲を聴いていると嘘の歌詞が浮かんでくる事がある。もしくは昔作った替え歌。CRウルトラマンで7とか入っている横を通る度に

光の速さで僕らを駄目に、し〜たの〜誰だ〜よ、ウル〜トォラァマァアアアアアアアアアアアアアアアン!!!

とよくわからない歌詞が。仕事中なんかの曲を思い出して(さりげなく歌いつつ)適当な歌詞をはめて遊んでます。とかそんな事してるから今日は朝から60人待ちとか。5のシマに先輩掛かりきりとか。周り全域カバーとか。まぁ朝番のうちは通路に花積みとかピラミッド積みとかしないぐらいだったがそれでも平均5箱でてるとこの平均12箱最高22箱とか。まぁもう結構しぼって搾取する時期なのにそこそこ人気だからな仕事人。ハンドルランプキュイってるよ。またかよ確変かよ。いみそーれ打ちたいよ。でもゲーセンで置いてあるとこないよ。

っつーかこないだゲーセンで北斗を打った訳だがバトル継続継続、ジャックジャックで6連くらいしてメダルにして800くらい取った訳だが、ん?北斗の拳でBIG連発?いやねぇから。設定6確定の開放台だけど。
そこの店300いくらで景品カードが出るだけで次回持ち越しとかそして景品カード2枚でもらえるのが

500円相当の柿の種みたいな奴

まぁ一応箱に入ってたから多少高いのかも知れんけどさ、換金率とか無視して百円=20クレジットで計算すると800で四千円分はいってるのに半分以下て…四千はないにしても2000円分のなんかとかさ・・・やる気でねぇよ!じゃあちゃんと店行って打てという話だが店だと確実に飲まれる気満々なのでやめときます。いやいや、2万使って一回もないとか。天井を狙う気かというかもう天井に墜ちるというよくわからん表現になるくらいだわ。まぁ…天井どのくらいとか知らん時だったので(ってか今も殆どの台の情報とか仕入れてないのでわからん素人)デラ無駄やった。確実に天井には行ってなかったと思うが。

そろそろ保険料が落ちるのでお金は使えんようになってくるぜ。まぁハルヒが発売延びたので買うものはないと。あ、アーマードコアラストレイヴンは欲しい。でも周りにやってる人がおらんて寂しい。やってても直ぐ酔う人しかおらんから、だれかやれへん?カスタムロボよりもちょっと難しいくらいよ?個人的にカスタムロボはV2が一番好き。でも新作出てんの?もしくは出んの?

っていうか当時の人にとってスマブラとカスタムロボと007ゴールデンアイは三種の神器と思わないか?ん?普通はマリカーとかだって?いやいや、ワリオのコースで16秒でゴールとか狙う奴らばっかりだし、バトルで初っ端ドンキーとクッパの体当たり対決とかよくあるし。対戦物といったらわし的にはこれなんだが。

とりあえずスマブラならピカチュウで全国10位くらいは確実に倒せた。カスタムロボV2ならじいちゃんシリーズにブレードガン装備させて遊ぶぜ。ゴールデンアイはお決まりのガッツ星人と。ヘリパイロットの頭デカモード。球無限とかはおもろないから寧ろ消されたライセンスで。30撃破終了でリモ爆とか。ピストル対決とか。重兵器でやると確実に出逢ったら死が待ってるから駄目です。

とかなんかもう取りとめないな。寝起きする話が世界のスパイに大変身だよ。でも最近の007は好きじゃないの。なんかとりあえず映像に請ったハリウッド?みたいなのがやだ。そういうもんじゃないっしょが。

まぁそろそろ終了します。んちゃ。



まぁ、JAZZを飲もうじゃないか。
音があれとか言うのはなしな。



http://www.nicovideo.jp/watch/sm158407





俺の姿を確認するなり俺の一番上の弟は今や雪原となった新宿ナイアガラの滝前の広場のサクサクと踏みつけて大声上げながら歩いてきた。なんとなく溜息混じりに笑った。




「あ、おい遼さん来たぜ!お〜い、こっちッス!」


「やぁ博和、相変わらずお前は騒がしいな」


「大会どうっした?って聞かなくても想像はつきますけど」

「お、分かってるじゃないか。優勝したよ。ほら『デジモンキングの証』」



「ほぇ〜、やっぱり凄いッスねぇ。でもやっぱキングは遼さんでなきゃ」


「そうでもないだろ。これからはもっと強い奴もでてくるさ。もしかしたらお前だってキングになるかもしれないだろ」

「オホメに預かりコーエーです」

「なんだよ、その片言みたいなのは」




「遼さ〜ん」

「遼さ、っぶわぁ!」



「啓人、またお前派手に転ぶなぁ」


「エヘヘヘッ、どうもお久しぶり」

「ヘヘッ、久しぶり。それに健太も」

「俺、前より強くなりましたよ、博和にもひけ取りません」

「んだとぉ?まだまだ俺のほうが勝率上じゃんかよ」


「んじゃ遼さんの前で何戦かバトルしてみるか?」

「望むところよぉ!」



「まぁまぁ…それは後でな。ところで、あそこの三人に引き摺られてるのはなんだ?」

「ま、ここまで来たのも半ば無理やりみたいなもんッスからね」




「留姫お姉ちゃ〜ん。ほら早く行こ〜よ〜」

「留姫、駄々こねてないでさ」

「っさいわね〜。別に私は来たいなんて一言も言ってなかったでしょ。あんた達が来い来い五月蝿いから仕方なく来たんじゃない」


「君も相変わらずだねぇ、留姫。久しぶり」

「アンタもうっさいわよ!ノコノコこんなとこ現れてないでさっさとホテル行って寝て帰ってなさいよ!」

「おいおい、いきなりその態度はないんじゃない?それに今日は博和の家に泊まる予定なんだから」


「んもう!」

「留姫お姉ちゃん意地っ張りなんだから〜」

「そうよ留姫ちゃん。本当は色々、言いたいことあるんでしょ」


「あ〜っ、樹莉に、小春まで!もうなんなのよ皆して!」

「すいません遼さん。元気になってからずっとこんな調子なんです」

「このほうが留姫らしい、じゃない」

「あれでも一応心配掛けたこと反省してるって思ってるんですよ」

「もうちょっと素直で仏頂面ばっかしてなきゃ、本当は女の子らしい子だからね」

「です、ね」

「そこ!何こそこそ話してんの!博和邪魔!」

「うぉっ止めろよ、暴れてんお前が悪ぃんだろ」

「五月蝿い!」



「なんか少しそれは無理な気もしてきたなぁ」

「です、ね。でもそうでなかったら留姫じゃない、みたいなそんな気もします」



「…だな」

「でも、聞くところによると健にはちゃんと謝ったって」

「…啓人からですか?」

「ん…聞いたらいけなそうな感じだったけど」

「心配掛ける僕等が悪いんですけれどね。でも元々僕は謝られたなんて思ってませんよ。謝られるようなことを留姫から言われた記憶もないです。多分、あの時留姫は熱で夢を見たんだと思います」


「そっか。じゃ俺も謝られることは何もないな」

「うわっ!冷てっ。お前等やったな」

「僕じゃないですよ。博和で〜す」


「留姫が避けっからいけないんスよ」

「へなちょこな弾投げてるからいけないんでしょ」

「誰でもいい!このっ」

「うわっ、何で僕!」

「俺遼さんの味方〜」

「おい、健太ずり〜ぞ」


「早い者勝ちだって」

「こっ、んのヤロっぅおっっと」

「博和兄ちゃん避けないでよぉ」

「健とこのちっこいのまでっ。よーしこの博和様がまとめて相手してやらぁ!」


「小春ちゃん、やっちゃえ。啓人君女の子は攻撃禁止だよ〜」


「えっ?それじゃっ、誰に」

「男女平等だっ!」

「博和にルールは無用だよ」


「ハハッ、皆よくやるなぁ」


「観戦してないでアンタも参加しなさいっよ!」

「危なっ、っと。これでも身体は毎日鍛えてるからね。これぐらいは避けられ、っぶ!うわっ」

「油断してるからいけないのよ」

「くそ、…そんなに参加して欲しいなら、僕だってやるからな、行くぞぉ!」


「ちょっ、そんなに本気に、っきゃぁ!…アンタねぇ、手加減ってもんがあるでしょ!ムカツク、ちょっとアンタそこでもう許さないわよ」


「もともとそっちがけしかけてきたんじゃないか」




ったく、結局よく分からないことになったな。色々みんなで話し合うんじゃなかったのか?

…でも、まぁこれでいいか。俺達はあれこれいいながら付き合ってきたわけじゃないし、それに何でもかんでもできる大人ってわけじゃない。まだまだ俺達が大人になるには時間がある。やっと少し皆がふっきれ始めたんだこんな風に息抜きしたってばちは当たらないだろう。



「そらっ、喰らえ啓人っ」

「こっちばっか狙わないでよ」

「っか〜お前もたまには反撃しろよ、あそこのお転婆みたいに」

「博和!いちいち五月蝿いって言ってるでしょ!」

「留姫ちゃんやっちゃえ〜」

「健兄ちゃんいいの?」

「あんまり手はつけないほうがいい、かな」

「あはははっ、あれはそうしとこうか」






デジモンの皆、そっちはどうだ?楽しいか?元気でやってるか?俺たちはこの通り、凄く元気さ。次はいつ会える、なんてくだらないことは聞かない。でもまたいつか会おうな。




「お〜い、結局話ってのはどうするんだぁ!?」








「ねぇ?隠れて何やってるの?」

「別に、隠れてた訳じゃないさ。敢えて言う必要はないか、と思っていただけだ」

「嘘ばっかり。重要な仕事なんでしょ?別に無理に聞いたりはしないわ」


最近は二人で飲む機会を失っていた少しばかり年代モノのブランデーを棚から取り出した麗花は、薄給だったころに買った安いグラスを指に掛けてダイニング越しに俺にそう問いかけてきた。昔から賢く勘の鋭い女だった。

だから、その頃馬鹿な女共に呆れるくらい熱心だった事を反省して、暫くはどんな女にも心を開くまいと思っていた俺が、その賢さを自分の為には使わない、そんな麗花に惹かれた。

コネや諸々の事象も重なって、ひょっとしたら今の俺よりも高い位の椅子に座っていたかもしれない麗花は自分の理想、そして彼女の親友、恵の為にその地位に甘んじることをよしとしなかった。そうして官僚の大いなる力によって押しやられた先で、ネット世界の管理なんてものが遠い夢だった若いプログラマーに彼女は出会った。

俺は二十代始めという、自分の若さや愚かさを知る事になる時期にもう既に情熱の半分を失い残り半分も冷めかけていた。多分、俺の馬鹿な夢の話に普段は何故こんなところに来たのかが分からないくらい優秀な働きを示していた麗花が、始めて二人で会った時にさも自分の夢についての話を聞いているかの様に熱心に聞き入ってくれていなかったら、今のこの自分も現実もなかっただろう。

例えそれが様々な悲劇を引き起こす結果になったのだとしても、その悲劇自体、実は必要なものだったと俺は言える。あの頃とは別の心持ちで。


「重要な仕事だ。俺の恩人達からの依頼、だからな」

「そう」


カタカタと俺がパソコンのキーを鳴らす横で麗花は静かにソファに腰を下ろしてブランデーの栓を開けた。防音設備の優れた部屋の中で、ブランデーを注ぐ音とキーをタイプする音が絡まる。それはまるでドビッシューの音楽のようだったが、残念ながら俺はその辺りはあまり聞かない。

麗花は自分のグラスにだけ注ぐと、何も言わぬまま一口喉に流し込んだ。麗花は分かっている。俺が仕事の間中はアルコールの類を口にしないことを。


「退屈そうな顔、するなよ。データの最終チェックだけだ。直ぐ終わる」

「退屈はしてないわよ。大体、これくらいで退屈してたら貴方と一緒になんて居られないわよ。偶の休みにまで仕事を持ち込むんだもの」

「そう言うなって。俺は徹底的な日本人体質だからな、手が空いてると不安なんだよ」

「じゃぁこうしてよ」


ソファの裏手に回って麗花は俺の首に手を回し、そのまま左手を握った。緩く握り返してからその手を俺の肩に掛ける。そうしてから再びキーをタイプした。こうやってパソコンや麗花の手に触れていなければ俺は、またもジッポーのフタを開け閉てする音を鳴らしていたに違いない。

元々それも自分が煙草を吸うためのものではなく、権力や金や立場だけをひけらかす何も分かっていない大臣どもに諂い自分の憎悪をたぎらせる為だけのものだった。今は、自分や、熟練の研究者である友に闘志を分け与える為にある。

簡単な音声データをパケットに入力するだけだ、本来それほど時間の掛かる作業でもない。だが、これは、これだけは万一にもミスをするわけにはいかない。時間を掛けてまで入念にチェックを行う理由と義務がある。


「麗花、お前は子供を欲しいと思うか?」

「…何?誘ってるの?そうしたら随分古い文句ね」

「何を馬鹿な…誘うならもっと言葉を選ぶさ。で、どうなんだ?」

「ん〜、分からないわ。でも、やっぱり、皆を見ていると楽しいだろうなって思う」

「…そうか」


俺は子供は嫌いだった。身の程を知らず、我が侭で、おこがましくて、そんなもの煩わしいと思っていた。だが、それは、単なる同属嫌悪だったんだ。俺はずっと夢見るばかりの子供だった。だから自分のしたことの愚かさに気付けずに、何度も同じ事を繰り返した。

悪質なクラッカーや増え続けるサイバー攻撃、果ては個人情報の流出や悪用、そんな現実が許せなくてネットの管理局、ヒュプノスを立ち上げようとしていた。そしてここよりも先進の技術を持つ国に倣いネットの中を監視していた我々は今までに見たことのない生物の存在を知った。デジモンはそれを始めて目にする我々には脅威だった。

俺はその生物が他の生物のデータを捕食する様を見てそれこそが悪だと今思えば甚だしい思い違いをしていた。ネットを管理しても、それでも時折我々を嘲笑うかのように監視の目をすり抜ける技術者に苛立ち、その鬱憤を全く別のものに憂さ晴らしのように擦り付けて巨悪の象徴だと忌み嫌った。

しかし、実際のそれは過去の偉大なる科学者の功績の足跡や子供達の夢の結晶体だった。こんなにも愛されている生き物が巨悪だなんて、言い訳をいくらしても足りない程だ。

だからこそ俺はもう言い訳をしない。ただこの教訓を次へ活かす為、全力を懸けて新しい我々の友を受け入れる体勢を確立するのみだ。だが…そんな矢先だった。運が悪ければそんな計画をふいにしてしまうような出来事が起こった。


「啓人君を叱ったこと、悔やんでる?」

「いや、後悔はしていない。大人がいちいち子供の反応で言うことを曲げていたら何が何だかわからない。だが…別の可能性も考えずにそうしてしまったのはどうなのだろうか、と思っている」


啓人君は大切な友を失った失意の中、希望とも思える現実世界、リアルワールドと仮想世界、デジタルワールドを繋ぐ道を再び見つけてしまった。彼にとってそれは何よりも嬉しい出来事だっただろう。それは勿論理解していた。

しかし、保障なくその道を繋げてしまうのはあまりにも危険度が高かった。その時期にあの生き物達がまた姿を現せば、我々ひいてはその、デジモン達も信用を失ってしまう。そうすれば次に彼等が此方に来られる時があっても彼等の居場所がなくなってしまう。そう言い聞かせて俺は啓人君を行動を抑制しようとコンクリ詰めにするという無理やりな方法も取った。

それは、啓人君が見つけたその道はもしかしたら、われわれに害のないようなものだったのかも知れない。もしかしたら放っておいても消えていったのかも知れない。しかし、俺は言葉で彼を止める力を持たずに、彼を傷つけてしまった。一回り以上も年が上のこの俺が。

だからこの「音声データに記録した自分たちの声をそれぞれのデジモン達固有のデジタルIDがぴたりと照合するデジモンのみにしかロックを解除できないパケットに入力し、子供達のパートナーにメッセージを送る」という計画に賛同したのも、罪悪感の為と贖罪の念があったことが大きい。無論、そうでなくても今の自分なら喜んで賛同しただろうとは思うが。


「悩んでいるならそれでいいのよ。きっと想いは通じているわ」

「俺もそう思ってるよ」


俺はパソコンを終了して、ブランデーをグラスに注いだ。そして最近取り替えたムードライトの蛍光灯が映すシルエットの頭を麗花のそれに重ねた。長くはない、が短くもない。そんな程度の行為を終えてブランデーを品なく飲み込んでグラスを空けた。

そしてまたブランデーを注いでグラスを麗花に渡した。久しくなかったお互いを見つめ合う瞬間。どちらからともなく笑って、それから麗花はこう言った。


「The biggest dreamers、大いなる小さな勇者達に乾杯」

「あぁ」


古い、七百円という価値しかないグラス同士を口付けて、カチンと高い音が響いた。珍しく麗花もグラスを空けるペースが早い。これは遅くまではもたないな、と思いながら俺と麗花自身もグラスに負けまいと、互いの心同士でカチンという音を響かせた。

ふと俺は愛情と日常というものは誰にでも変わらずに訪れるもののような気がした。中にはそれに気付かなかったり、忘れてしまったりして不幸にも見失ったまま一生を過ごしてしまう人もいるのかもしれない。
しかし、愛情と日常は、このリアルワールドとデジタルワールドのように確かにその姿を確認できずとも実はどこかで全ての生き物やその心に繋がりあっている、そんな気がする。


「そうだ、明日の朝はいつものパン屋に買いに行かない?」

「そうだな。…なぁ麗花」

「何?」

「やっぱり俺も今は子供が欲しいと思うよ」

「やだ、古いって言ったばかりじゃない」

「気取ってばかりの奴じゃ面白くないだろ」

「そう、こなくちゃね」


俺はパソコンを閉じてリモコンスイッチで電気を消して二人でソファの上に倒れ込んだ。そしてその年の秋、うっかりパソコンの電源を消し忘れたばかりに、不可思議なメールが届いて俺たちは驚くことになった。


『デジタルワールドヨリ、シキュウレンラクサレタシ』


そして確信した。自分の子供と共に過ごす日々は当分先のことになるだろうと。













終わり
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家で寝てたってことは、まぁ納得。そもそも寝る前の記憶が殆どないし多分健と話した途中でまた訳わかんなくなっちゃって家まで運ばれたんだろうなって予想はつく。

でも、でも健までが私の家に居てしかも真横で大きい体丸めてグースカ呑気に寝てるってことは意味わかんない。

取り敢えず体起こした。そしたら白いものが私の目の前を通り過ぎて落ちた。それは水に濡れてるタオル。


「何よ、看病してたんならそう言いなさいよ」


健に絶っ対に聞こえない、起きないぐらいの声でちょっと独り言を呟いてみた。これくらいのことでちょっと嬉しくなってる自分が悔しい。でも、悪い気はしないけど。

昨日から今日にかけて、健には色々迷惑掛けてる。勿論、健だけじゃない啓人とか博和健太とか、色々。散々あっちこっち引っ張りまわして、それは皆が勝手にやった、ってだけだけど、でも私でも責任は感じてる。素直に謝れるかは分かんない、ケド。

でも健がこれだけ色々なことをしてくれるのは何で何だろ?…私に気がある、とか?まさかね。あぁもう、弱気になるとすぐろくでもないこと考えるんだから。自分で馬鹿みたい。なんなのよ全く。

まだ頭が少しフワフワグラグラする感じはなくなってないけど、息をするのが大分楽で、身体も頭もそんなに痛くない。コイツには色々感謝しないと駄目、だよね、やっぱし。何かメンドくさいなぁ。でも流石に私だってそんなに薄情じゃない…ってかそもそも私は別に冷徹な人間ってわけじゃないわよ!…なんて言えた事じゃない、よね。分かってる。

色々考える隙間に何だか色々な音が聞こえて、それで何かちょっと外が騒がしい気がする。今何時なんだろう。雨戸は閉まってて時間の感覚があんま分かんない。

ドタドタと廊下を走ってる音がする。でもこれはお祖母ちゃんの音でも、ママの音、でもない。二人とも滅多な事で家の中を走ったりはしないし、大体こんな品性の欠片もないみたいな間抜けな音はさせない。何かまさかな悪い予感がする。健がここにいるんだからその可能性も結構高い、カモ。


「ドタドタ足音させて、五月蝿いったらありゃしないじゃないのよ」


スーッとこの間までは立て付けが悪くて最近やっと直した障子戸が開いて入ってきた啓人、博和、健太にその言葉を浴びせた。なんか凄く間抜けな顔で私の前に姿を現した。


「うわっ、ゴメッ…あれ?留姫起きてたの?熱大丈夫?喉渇いてない?」

「っ、一編にそんなに色々答えられないわよ。そもそもあんな音だしてたら寝てたって起きるわよ」

「それは〜、ゴメンッ。で、大丈夫なの?」

「喉は渇いた。後は別に大丈夫。大体、駄目って言ったって別に治るわけじゃないじゃない」

「了〜解。じゃ、お茶持ってくるよ」

「それと、そこの馬鹿みたいのが起きるから静かにしなさいよ」

「はいはい、了解」

「はい、は一回!」

「はい!」


相変わらずの啓人の慌てっぷりにちょっとおかしな気分になった。私は肩を竦めて、何よそれ、ってポーズをとった。そういえば皆と会うのってなんか随分久しぶり。でもなんでかそんな気はあんまりしない。ずっと昨日まで会ってたみたいで、それから今起きたところ。なんでだろ。よくわかんない。友達、ってこういう風な事を当たり前に思える、ってことなのカナ。

それで私は健を気遣うつもりなんて別になかったけど、なんとなく事情が分かってみると起こすってのも気が引けて声のトーンを下げて口に指をやって啓人を諫めた。ちょっと躾けたみたいなところもあるケドね。


「ったく起きてそっこーでやな奴だなお前」

「ホントホント」

「何よぉ」

「一応皆お前のこと心配してたんだぜ?ったく無茶やるやつは人の気なんて知らねぇんだからよ」

「考えるより先に手と口がでるんでしょ?」

「煩いわよ!」

「ほらやっぱり」

「ぅ…ぐっ…。どう…どうでもいいでしょそんなの」


あんまりあれこれ煩くて私は思わず枕を投げた。なんかもう、条件反射って感じ。全く、何してんのよ。本当に考えるまもなく攻撃しちゃった。これじゃぐぅの音も出やしない。そのまま口をつぐんで私は視線を逸らした。


「しっかし健もやるよな、そのままこの部屋で寝るとは思ってなかったぜ」


自分達でぐだぐだ言い始めたくせに博和はまた自分で話題を変えた。でもちょっとだけそれが気になって、それで私は直に聞いた。


「ねぇ、コイツずっとここに居たの?」

「ん?あぁ、な。俺が取り合えず起きてた時はずっとここに居たぜ。二時っくらいにションベンで起きて様子身に来た時も居たけど。多分それからずっと居たんだろうな」


こんな寒い所で一晩中私を看ててくれたんだ。…別に、有り難がったりなんかしないわよ、とか思うけど、でも同時にやっぱり少し、本っ当にちょびっとだけ嬉しくもなった。ママはいつも忙しかったし、おばあちゃんはいつも元気だけど無理するって歳じゃない。

そう自分で理解してたからいつも物事に期待とかしてこなかった。授業参観も運動会も学芸会も別に私は何か頑張りたいって思ったものはないからそれでも良かったからいつも、どうせまた仕事とかでしょ、って思ってた。でも本当は私だって一人でなんか―――――。


「ね、っねぇ、何で健はそんなに色々してくれるの?」

「んなもん俺等が仲間だからに決まってんだろ?何馬鹿みたいなこと言ってんだよ」

「でも、でも仲間だからって…普通はこんなに迷惑とかかけて、だって…」

「別に迷惑だなんてどいつも思ってねーっての。なぁ」

「うん、そうだよ。留姫が素直じゃないだけでしょ」

「それはっ!…そう…だけど。うん、認める。でもっ」

「あぁ〜むぉうぅぅぅ!だったら本人に聞けよ。俺等が分かるわけねーっつの。お前は何にも言わない何も聞かない。だからそう色々、なんだ、まぁあんだろ?だからたまには自分からなんかしろよ。別に誰もウザがったりなんかしねーよ、なぁ?」

「そうそう」


何よ二人で。別に、必死になってた訳じゃないっての。ただ、今まで皆がしてくれたみたいなことされたことなかったからちょっと戸惑ってて、それで聞いてみたかっただけ。でも、自分でも分かんないくらいそうしてみたいって気持ちが強くなってた。

そんなつもりもないのにちょっと食い下がった。今何かヘンだよ。…私、最近自分がコントロールできてない。ううん。ずっと前からそうだったけど、初めてそうだって意識したの、きっと。私は一人で居るってことが当たり前で、それが普通だと思ってた。

誰かといなきゃいけない人の気持ちなんて絶対分かんないって思ってた。でもそれは本当は嘘をついてただけで。なんて、ほら、こんな訳分かんないことばっか考えてるよ。


「博和に説教されるとは、思ってなかった」

「確かに俺は頭悪いけどよ、偶にゃそんな奴の説教も聞いとけよ」

「俺は頭悪くないけどな」

「うっせ〜よ」


でもそうやってちょっと訳分かんないぐらいのほうが当たり前なのかも。だって自分がどうして今こう思ってこう考えてるのかなってことも、人の気持ちなんてものも本当の意味じゃ分かんないし。コイツ等みたいにここまで何も考えないってのも私には無理だけど、 もう少し、少なくとも皆の前じゃあれこれ考えなくてもいい、んだと思う。きっと。


「…っ…ぅ、ん?うわっ!いつのまに寝て!…あれ?皆、それに留姫…」


少し五月蝿くし過ぎた所為か知らないけど、今まで横になって丸まっていた健の身体が跳ねるように起き上がった。


「お茶持って来たよ〜、って、健」


そこに人数分のコップと冷蔵庫に入ってたはずの麦茶を持って啓人が入ってきた。何でよりによって冷蔵庫でキンキンに冷えた麦茶を持ってきたのよって思ったけど、目の前の光景はそれどころじゃなかった。

自然に笑うっていうのはこういうことなのかな。今まではずっとどっか笑おうとか、笑った方がいいよね、とか頭で考えたりしちゃってた。そんなこと必要ないぐらいに思ってた。でも今はそうじゃない。今までそうだったってことも今そうだってことも思いつかないくらい自然に出来た。出来たっていうのも違う。勝手にそうなった。


「健、寝癖が凄いことになってるよ〜」


寝惚けてるのか自分の身の回りのこともよく分かってない健は何だって顔で皆のことを見た。量が多くて硬い髪の毛は見事に逆立っていて天井の方が地面じゃないの、って思うくらい上に向かって生えてた。健は自分の頭を掻く癖と自分の髪の毛の性質を知ってるお陰で何が起こったのか直に分かったみたい。


「はははっ、アンタの頭馬鹿みたいだよ」


皆揃って大声で笑った。色々な考えが吹っ飛んだ。私は相変わらず誰かと一緒にいなきゃ生きていけない人の気持ちなんて分かんないけど、でも私はずっと誰かと一緒にいたかったんだって分かった。こんなに気持ちいい朝はいつ以来なんだろ。今はそんなのもどうでもいい。


「寝起きなんだから仕方ないだろ」



私は尚更笑った。






「それじゃあ、今回もキングの座に輝いた秋山遼君にコメントを頂きたいと思います!今回初めてのテイマーも、もう何回も出場してるテイマーもこのキングの強さは十分に見せ付けられたよね。これから先の参考や、ひょっとしたら弱点なんかも聞かせてくれるかもしれないからよ〜く聞こう!」


「ははっ、そんなに大袈裟なことは言えませんよ」


公式大会ではすっかりおなじみのこうじさんの相変わらずの巻き口調に促されて俺は壇上の前にでた。前に出てのコメントは久しぶりで少し、緊張したけどでも懐かしい感じが気持ちよかった。

結構前の大会、俺の先代の王者、というかキングの話を尊敬半分悔しさ半分でまさにこの会場で聞いていた覚えがある。同じような感情を持って今俺の話を聞いている子はいったいどのくらいいるんだろうか。その子が今後俺を倒す日はいつくるんだろう。わりと早く来るような気もするし、でも、そんな日はもう来ないような気もする。


「やぁみんな。実力やら運やら色々あって今回もキングになることが出来た秋山遼だ。多分〜この中じゃ結構年上の方だと思う。こうして俺がみんなの前にでて話してみて最近思うのは若い、っと俺もまだ若いか」


会場に細波のような笑いが巻き起こった。やじみたいな掛け声も聞こえる。


「いやいやどうも。で、あ〜そうそう、俺よりも幼いテイマーが増えたなって。俺が決勝で当たったテイマーなんてまだ小四だもんな。すこしずつだけど時代が変わるって言うのかな、そういうのを感じてるんだ。俺はもう早く俺を倒してくれるだけのテイマーが現れて欲しいって思ってるんだ。勿論、ただで負けてあげられるほど俺は優しくないけどな」


少し間をおいて会場を見渡してみると、うなずいてる奴や、次こそはって目をした奴が見えたりする。でも、まだまだだぞって睨み返してやったりしてみる。


「最近、デジモンカードは急速に種類を増やしたりしてて、戦略も前よりもずっと必要になってきた。素早い進化で反撃させないタイプの奴や、それとは逆に相手が進化すればするほど強くなる上級レベルキラーの奴もいる。

かつてないくらいにそういった奴とのやり取りが今は楽しいんだ。だけどな、セコイ手やつまらない戦いはして欲しくない。今回は指定されてなかったから結構多くのテイマーが使っていたけど、インプモンの引き分け戦法は正直テイマーが使うものじゃないと俺は思っている。カードの力やルールの隙を利用するようなそんな戦いは面白くない。

だろ?バトルは勝てるから面白いんじゃなくて、戦っていくうちに自分自身が今までの自分より、対戦相手よりも進化できて、その結果勝てるから面白いし嬉しいんだ。デジモンはただのカードでもデータでもない。ちゃんとした生き物なんだ。

今だってどこかで戦ったり進化したりしてるのだと思う。俺はそれをずっと心のどこかで考えていたし、身をもって経験もした。そうしてきてやっぱりこれから先皆に経験してもらいたいのは、例え遊びでも自分でどうするか考えて悩んで進化していくってことだ」

熱を上げて話をしているうちに次第に会場の反応が薄くなってきた。それはみんなが話を聞かなくなったんじゃない、話に集中して熱心に耳を傾けてくれているからだ。まだ鼻水を垂らしてそうな小さい子でもそうしている。…こんな出会いができた俺はきっと凄く幸せな奴なんだろうな。

子供は誰だってテイマーだ。大切なものとこれから先進化する可能性を持ってるし、そうならない可能性も秘めている。だから俺は皆にもっと大切なものを持って欲しいって願う。俺がデジモンに出会ったように、サイバードラモンに出会ったように。

更に熱くなって俺は続けた。


「ところで俺には四人の弟と三人の妹がいる。と言っても本当にそうなんじゃなくて、俺がそう思ってるってだけなんだけど。そいつらはデジモンと出会って色々な困難に立ち向かって、驚くぐらい進化してきた。俺の自慢できるものはカードの腕とこの七人の弟達だ。そのうちの一人は皆多分知ってると思うけど、今一番俺の腕に迫ってるデジモンクイーン、牧野留姫って子だ」


会場がどよめいた。それもそうか、今じゃもうどの大会にも顔を見せていないし。


「でもその子は多分もう大会、とかには出ないと思う。その子にとって戦うことよりも大事なものを見つけたから。一回も勝てなくて居なくなりやがって、って思ってる奴もいるかも知れないけどそれは許してやってくれ。あの子なりに考えた結果なんだ、それは。…おいおいそこ、別に彼女って訳じゃないよ。妹だって」


俺ぐらいの年の奴がよけいな推測を投げかけてきた。ま、こういう奴も世の中にはいっぱいいる。それはそれ、俺は俺、別に構ったことじゃない。


「遼君…そろそろ終わらせて」

「あぁ、すみません。ちょっと久しぶりで熱くなっちゃって」


こうじさんが後ろからこっそりと時計を示してきた。迷惑をかけるのも嫌だし、俺自身今後の予定もまだあるしここらで切り上げなきゃな。


「でも、取り敢えず俺は当分キングの座にいると思うからそれは安心してくれ。今回勝った奴も負けた奴もみんなもっと考えて頑張って俺に負けない次のデジモンキングやクイーンになってくれることを期待してる。ズルはするなよ。それじゃぁ」

「秋山遼君でした。それじゃ次に……」


今日はもう一つ向かう所がある。カード大会のエンディングセレモニーをキリのいいところで抜けて俺は東京では二週間ぶりに降った珍しく回数の多い今年度四回目の大雪の中新宿行きのバス乗り場へと足を向けた。






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夜が更けて皆が寝静まってから暫くしても僕はなかなか寝付くことが出来なかった。疲れてはいるのだけれど、どうしても閉じた瞼が素直にくっついてくれなくて僕は何度も寝返りを繰り返した。神経が昂ぶっているのかもしれない。今日は色々とあったし。

次に寝返りをすれば眠れるだろうと思い込もうとすればするほど寝返りの数は増えて、このままではその騒音で誰かを起こしてしまいそうで、それはよくないなって思って、堪らなくなって廊下へ這い出した。

古風な造りの家は音をよく吸い込んで、静かで暗い。寒さがシンと肌に伝わって僕は身を縮こめながら元来た道を戻って布団を一枚羽織った。家に合った木の雨戸の向こうではまだ雪が降っているらしくて、そういう音は、僕だと聞き分けたりできないけどそういう感じがする。

雪は予報では明日の、日にち的には今日の朝まで続くらしいと言っていた。留姫の家に着くまでに既に大分積もっていたからここ数年では見られないくらいの大雪になるかもしれないな。寒いのは正直言って結構辛いんだけど、積もる雪は嫌いじゃない。お父さんは朝方の雪かきが辛いからって雪が降るとあまりいい顔をしないけれど僕が小さかった時は一緒に遊んだようなことを覚えてる。

顎に手を当てて考えてみる。寝ることは出来ない。かといってやることも何も無かった。自分の家だったこういうときはパソコンで新しいソフトでも試すのだけれど。結局何も考え付かなくてとりあえず留姫の様子でも見ることにした。

床より寧ろ軋む身体に注意しながら歩く昔の日本家屋はやっぱりそれならではのなんと言うか、風情、みたいな、そういうものが感じられた古い文化や遺跡とかを調べたりするのは僕の好きな分野で当然こういう古風な日本家屋もその範囲の中にある。だからこんな家に住める留姫が少し羨ましい。

雨戸を少しだけ開けて庭を眺めてみたい誘惑に駆られたけれど風通しのよい日本家屋でそれをやるのは気が引けて止めた。

今の僕には長く思われる廊下を抜けて左の障子戸を開けた。独りよがりで怒りっぽくて人を寄せ付けない冷たさがあって、でも本当は子供っぽくて結構くだらない事で笑ったりして優しい我が侭な姫様を起こさないように静かに戸を閉めて側に寄った。我が侭な姫様か、自分で考えておいて、だけれど今のフレーズは別段面白くもないし、言うと怒られるし封印しておこう。

先ず首筋に手の甲を当ててみる。まだそこそこ熱が篭っていて熱い。風邪の引き始めはきっとそうじゃなかったんだろうけど、この熱でよくあちこち動き回れたなと感心する。でもあんまり感心しない行動だけど。
額のタオルも手に取ってみた。流石に水を含んでいるから熱いとは言わないけれど随分温くなってしまっていた。

オレンジの電球の薄暗い中で水桶を探したけれどずさんな仕事をしたらしい博和が用意し忘れたみたいだ。仕方なく羽織っていた布団を置いてタオルを持ってそっと後退りした僕はそのまま台所へ向かった。

物が多くて少し入り組んだ台所を足元に気をつけながら進み蛇口のレバーを下げて水を出す。冬場の水道水はキンと冷えていて手を強く刺激する。その冷たさに耐えながらやっとのことで水を搾った後にお風呂場から桶を持ってくるのを忘れたことに気付いた。

暫く頭を掻いて自分の手抜かりを反省してから桶を取りにお風呂場まで向かった。そして台所に戻って来た時にどうせならお風呂場で水を汲んでしまえば良いことにことに気付いた。更に水を汲んでから氷も入れておいた方がよいことも思い付いて、それならお風呂場で先に水を汲んでも意味がないことに気付いた。

更に更に桶を部屋まで持っていくときにはタオルを持つことが出来ないことが分かって、一旦桶の中に入れてからまた後で搾る破目になった。

なんだ、僕は寝惚けてるのか、と疑いながら、このままでは帰りの道中に水を溢す様な気がしたから多少その量を減らしていった。覆水盆に還らず。桶の水は溢したら面倒くさい。物事には注意して取り組むべきだということを改めて知った。というか僕は阿呆か。

いくらか余分に疲れて戻ってきた僕は慎重に桶を留姫の横に置いてから一度楽な姿勢で息を吐いた。たった一回の水汲みでなんでこんなに疲れなくちゃならないんだろう。溜息と同時に呟いたからボソボソとした音が口から漏れた。

タオルを搾った。冷たくて顔をしかめながら。先ずちょっとずつ起こさないように留姫の顔を汗を拭いた。僕は男の子で、留姫は女の子で、シャツのボタンを開けて身体を拭く、というわけにもいかないから、首だけ少し拭いてあげてからもう一度水に浸して、搾って額に乗せた。  
 
小春が風邪の時なんかは僕が重に看病するからこういうことには慣れていたけど、今更ながら女の子と二人というのは妙に緊張するなと思った。

また首筋に手を当ててみた。水の気化熱というらしいもので少し熱が引いたように思えるけど、それでまだこの温さだから実際は結構な熱がありそうな感じだった。

不意に留姫の髪の毛が手に触れた。ひどく柔らかい。小春のそれみたいに細くて手を引くとするりとする感触を残して逃げてゆく。無意識に息を飲むほど不思議な柔らかい感触。髪の毛は女の子の命とお母さんが小春の髪を梳きながら言うことがあるけど、何となくそれが分かる気がした。僕は手櫛で自分の髪を梳いてみた。ざくさくと手に絡まる。引っかかって痛い。

暫くは何故か動きたくない、って思った。何でだろう。多分、きっと、あの、正直に言えば見惚れていたんだと思う。僕の髪の毛は癖が強くて少しも色が抜けてなくて真っ黒なんだけど、留姫は逆に意図的に斑っていうか、あれだ、つまりメッシュとか言われる状態になっていて、なんていうかそれがでも似合ってる。こういうセンスのよさってのは留姫のお母さん譲りなんだろうな。

それから暫く何も考えないままにその髪の毛を恐る恐るに触れてたりした。自分の何処にもない感触っていうのはやっぱりそれだけでどきどきして心惹かれた。何となくクラス男の子が、胸、だとかお尻、だとか触りたいって騒ぎ立てるのは、僕はそういうのに参加したりはしないんだけど、でも分かる気がした。僕だって最近はそういう気持ちが全くない。とは言い切れない。

不意に障子の引き戸がすすっと地面にすれて開く音がした。その突然の物音に驚いてはっと手を引いて後ろを振り返った。なんとも申し訳なさそうに博和が部屋に入ってきた。一瞬身体が飛び上がったかと思った。


「いやぁ、でさ、夜更かしが癖ついててよ、暇でお前が何してんのかなって思って見に来たんだよ」

「……何、って別に。取り合えずタオルは交換したけど」


後ろでに障子を閉めて僕の横にざっと腰を下ろした。潜めた声で博和は僕に言い訳してきた。それが逆になんだか僕が悪いことをしたみたいな気分にさせた。実際にそうなのかも知れないけれど。


「で、そこのお転婆の様子はどうよ?」

「まぁ、大丈夫そう、かな」

「そっか。全く毎度毎度無茶するよな、こいつは」


肩を竦めて呆れたみたいに博和は口の端だけで笑った。


「え〜、ところで健良さん、つかぬ事をお伺いしますが」

「え、何?」


急に博和がわざとらしい口調で拳を作りマイクを差し出すように僕に向かって拳を突き出した。なんか妙な気分がしてすこし身構えた。


「お二人の仲はどこまでいってんのかね?」


また僕は飛び上がったかと思った。実際には微動だにしなかった僕は博和の喋り方が実は徹底してないなと、頭の中で自分が冷静であるということを考えるように努めていた。  

博和はなんだかニヤニヤしていた。博和は多分そのうち女の子の胸がお尻がとしきりに言うタイプになるような気がした。


「っ…やめて、くれよ。そういうからかいとかあんまり得意じゃないんだから」

「得意ってなんだよ。つまんねぇな、ほれ、なんか答えろって」


僕は掌を博和に向けて身体を退けた。しかめ面もしたかもしれない。こういう質問は何を言ったって都合のいいように取られるって相場が決まっているし、今は無駄に色々考えて疲れたくないって思って取り合えず何も言わない意向を示した。カメラを避ける政治家に似ていた。


「マジな話、何もねーのか?」

「何も…ないよ。っていうか本人の前でそういう話をするのはどうかな」

「寝てっから大丈夫だろ」


本当は僕がしたくないだけなんだけど。


「でもま、お前にゃそういう話とかあったほうが良いと思うぜ?お前ら二人ともけっこー人を頼りにしないだろ。だからなんつーかそういうのはいた方がいいと思うぜ。オレ的にもけっこー似合うと思うしよ」


博和は僕とは真逆の考え方をしている。何事も考え込み過ぎないで気軽にやっつけてしまえる。殆どのことは物怖じしないで先立って決断したりしてしまう。よく言えば果敢だけど悪く言えば考えなし。

最初のうちは留姫ほどいやな顔をしたりはしなかったけど、でもあんまり好ましくなくてそれほど深い仲にはならない気がしてた。こういった安易に行動して人を傷つけてしまう人は、僕自身がそういうことを望まないこともあって、考えてからじゃないと動けない僕からすると苦手なタイプだって思っていた。

でも博和はふざけているようで実は僕でも及ばないことまで周りを気遣っているんだってことが分かった。多分本心や感情で生きていて自分が変化しやすい分人の変化とかもわかるんだと思う。

皆の気が滅入ってしまっている時は気楽に振舞ってみたり、デジタルワールドで僕と啓人と留姫がスーツェーモンの所へ行った時も小春を守ろうとしたり加藤さんを心配したりしてたってことも聞いた。デジタルワールドから帰ってくる時も戻ってこない留姫のことを心配したり、インプモンを連れて来た事を深く追求せずに容認したり、と。

現に今ふざけながらも僕をいたわってくれている。本当にただふざけている、だけの時もあるけれど、それもまた博和のとりえなんだと最近は思えるようになった。

考えてみれば僕はどちらかというと人付き合いは苦手な方で、啓人も留姫もデジモンのことがなければきっと話すこともなかっただろうって思う。一つのことを通じて様々なものと出会ったり発見したりすることが出来た。それはもしかしたら物凄いことなのかもしれない。それを僕よりも安易に追求できる博和が羨ましいとも思う。


「ねぇ」

「あんだよ」

「君がテイマーを、じゃないな、デジモンを始めたきっかけって何なのさ?」

「きっかけ?なんだー、っけかな」


ふと僕はつまらないことを聞いてみたくなった。啓人がデジモンを始めたきっかけは博和がやっているところを見てってらしいんだけど、ならその博和のきっかけというのは何なのだろうと思った。

博和は腕を組んで首を傾げながらそれが何かを思い出そうとしていた。僕は留姫の様子を眺めながらそれを待った。留姫は相変わらず少し苦しそうな顔をしていた。


「多分なぁ、あのCMだよ。ほら俺らが一年くらいん時の、あの、え〜、何だ、あのゲームのやつ。ほらほらデジモンがバンバン戦って、最後に主人公が出てきて『君もテイマーを目指せ!』って言うやつ。あれがメチャ格好よくてよぉ、それでハマったんだよなぁ」

「博和もなんだ!僕もあのCM見てからお父さんにせがんで買って貰ったんだ。よく憶えてるよ」

「ほぁ〜〜ん。じゃぁ初回のカードも持ってるクチだろお前も」

「プログラムカード『テイマーの証』でしょ。七色の背景に人のシルエットとデジヴァイスが移ってるやつ」

「すっげーな。お前がけっこー初期ごろのテイマーとは思わなかったぜ。健太も啓人も俺んちでゲームやってたくらいだからよ。証持ってん奴に会ったのはマジ久々だぜ。あれ初回のカードが意外と少なくて持ってる奴は珍しいんだよな」


意外なところに博和と僕の共通点を発見した。まさか同じことがきっかけでデジモンを始めてたとは思わなかった。僕は嬉しくなった。


「でもしっかし健が親に物せびるってのもあんま想像できねーな」

「まぁこれでももっと小さい頃は結構我が侭だったんだ。喧嘩とかもよくしてた」

「ほぇ〜、案外そんなもんなんかねぇ。やっぱ想像できねーけどよ」

「そういう自分が許せなくて変わったんだ。意図的にって考えられる程賢くはなかったからなんか自然に、ね」

「そっか。結構苦労してんのな」


自分のことを人に話したのはなんだか随分久しぶりだった。博和はやっぱり一種ムードメーカーなのかもしれない。だから啓人も博和を慕っているのかも。


「そういや俺とお前のツーショットってのも珍しいよな。こんなんがなきゃそんなに喋んねぇよな、クラス違うし」

「そうだね」

「まっ、暇つぶしにゃなったぜ。後はてきとーに楽しんでな」

「いや、だからそういうことは…」


一通り喋った後博和はまたさっきの申し訳ない様子で捨て台詞を残して僕の言葉を最後まで聞かずに部屋を去っていった。やっぱり単にからかってるだけなのかもと僕が思ったのは言うまでもないだろう。

少し声が大きかったかなと今のやり取りで留姫を起こしてないか顔を覗き込んだ。と、同時に留姫が寝返りをうって心底びっくりした。タオルが落ちたから拾ってまた水につけて額に乗せた。ついでに熱も確かめた。当然まだ熱かった。

たっぷり十分くらいは留姫の様子をずっと眺めていたけれど、博和の言ったことがまだ頭に残ってて落ち着かない気分がした。同時になんだか目の前がぼやけてきたような気もして僕もそろそろ帰ろうかなと思った矢先に奇妙な音を聞いて動きを止めた。


「ぅ…ぅ……ん…」


それが留姫の呻いた声だって気付く前に随分辺りに音の原因を探してしまった。留姫が苦しそうに布団を退けようとする音を聞いて漸く気付いた。

声…か、そういえばあのテリアモンの声は何だったんだろうか。うん、でもそれは、まだこっちの世界と向こうが繋がってるって事の証明になる、のかな?なんで急にそんなこと考えたんだろう。やっぱり僕はそろそろ寝惚けてる、のかもしれない。

熱いのかな。留姫は随分と苦しそうだ。っていうよりも魘されてる…のかな?そうだよな。普段強がっていても女の子、だしね。僕は最近は身体も強くなったみたいでほとんど風邪を引いた記憶がない。でも、それでも病気をした時のあの怖くて不安な気持ちは覚えている。

このまま自分が消えてしまうようなそんな感じが胸の奥を締め付ける。その感じ。

首筋はまだ熱気を感じて、さっき汗を拭ったばかりなのに触れるともうじっとりと濡れている。また汗を拭って水につけて額に乗せた。留姫の苦悶の表情をみてなんだか心苦しい気がした。

僕は留気が苦しんでいた本当の理由を知らない。それを知りたい気持ちはある、勿論。今留姫の夢の中を覗くことが出来るのならやっぱりそこで何が起こってるのか見てみたいし。それは色々やましい気持ちがあるって訳じゃなくて何というか純粋に知りたいだけ。

夢は全くの空想なんかじゃない。どこかに必ず現実を示すものがあるって何かの本で見た記憶がある。それにはやっぱり直接聞くしかないんだろうな。僕は魔法使いじゃないから。

留姫は本当はとても弱いってことを自分で理解してる子なんだ。僕は随分前からそのことを考えて、分かってた。つもりだった。見た目よりもずっと子供っぽくて女の子っぽい。僕はそれを何となく納得してただけだった。

留姫の両親が離婚したってことも色々あって知っていた。なのに僕はそのことを気にかけてあげられなかった。大切な人を失くす経験をしていたのに、それを、考えてあげられなかった。いけないな、そう考えない方が良いって啓人にも言われてるのに。でも考えてしまう。

不意に留姫の手が布団から飛び出してきた。浅い眠りの中で何を見ているのかは分からなくても夢の中が幸せな景色じゃないことは分かった。僕は出来るだけ優しい手つきで留姫の頭を撫でた。何度も撫でた。何でだかは分からないけど。

僕のしてあげられることに大したことなんてない。それがひどく歯痒くてでも当たり前のことだった。留姫の手を布団の中に仕舞う。頭が少しフラッとした。やっぱりそろそろ眠くなってきてるみたいだ、瞼が引き攣る。

でも僕は何でこんなに色んなことを考えてるんだろう。啓人にも言われたし、自分でも気付いているけど、全てが僕の所為って思う必要なんかは、ない。元々の臆病な性格の所為だとは思うんだけど、最近はこんなにもそのことを強く思ったことなんてなかったのに。

僕はまたタオルを水で冷やして留姫のおでこに乗せた。

多分それは留気が僕に似てるからだと思う。考えすぎてしまったり、一人で全てをやりこなそうと思ってしまったり、本心では啓人みたいに人を心から信じてみたいのに、でも不器用でそれがなかなか出来なかったりするところ、とか。

だから留姫が悩んでいたり悲しんでいたり、そのくせ強がっていたりするのをみると自分のことのように思えて心苦しくなる。

留姫が笑ったところを僕はあまり見たことがない。いつもどんなことにも興味がないって顔でそっぽ向いていたり、つーんとした表情だったりするし。話に混じってる時も呆れてたり怒ってたり、そうでなければちょっと考えるような顔をしてたりしてる。

頬が緩むなんて在り得ないくらい。笑うと留姫はとても幼くなる。口の端がちょっと上がって小さなえくぼが浮かぶ。と、それでそれだからそれから、目尻が落ち着いて普段と違う優しい雰囲気になる。そう言う…。

そう言うときっと留姫は怒るだろうけど。考えてみると。僕は結構人のことをよく見てるんだなって思う。でも、その割には人の色んなところに気付いてないな。なんだか矛盾だらけだ。なんて僕はその矛盾の理由を分かってるのかもしれない。

博和に言われた通りあるいはそうなのかもしれない。
そう思える節が幾つも在る。

僕はそっと障子を開けて部屋に戻った。寝息を立てる啓人たちの横を抜けて自分の布団に潜り込んだ。そしてあっさりとその温かさに意識を奪われた。





はっと気付いて僕はまた留姫の額のタオルを水で冷やして元に戻した。そうする必要があったかは最早判断がつかないけど、というよりこの時僕が何をしていたかさえよく分からなかったけどそうすることで僅かに僕の意識は保たれた。

はっきりと口に出すことも自分の中で明確に意識するのも怖かった。何で怖いのか今の僕には分からない。それは多分僕がまだ子供だから、だと思う。

博和に言われた通りあるいはそうなのかもしれない。

そう思える節が幾つも在る。

僕はそっと障子を開けて部屋に戻った。寝息を立てる啓人たちの横を抜けて自分の布団に潜り込んだ。そしてあっさりとその温かさに意識を奪われた。





はっと気付いて僕はまた留姫の額のタオルを水で冷やして元に戻した。そうする必要があったかは最早判断がつかないけど、というよりこの時僕が何をしていたかさえよく分からなかったけどそうすることで僅かに僕の意識は保たれた。

はっきりと口に出すことも自分の中で明確に意識するのも怖かった。何で怖いのか今の僕には分からない。それは多分僕がまだ子供だから、だと思う。

博和に言われた通りあるいはそうなのかもしれない。

そう思える節が幾つも在る。

僕はそっと障子を開けて部屋に戻った。寝息を立てる啓人たちの横を抜けて自分の布団に潜り込んだ。そしてあっさりとその温かさに意識を奪われた。




はっと気付いて僕はまた留姫の額のタオルを水で冷やして元に戻した。そうする必要があったかは最早判断がつかないけど、というよりこの時僕が何をしていたかさえよく分からなかったけどそうすることで僅かに僕の意識は保たれた。

はっきりと口に出すことも自分の中で明確に意識するのも怖かった。何で怖いのか今の僕には分からない。それは多分僕がまだ子供だから、だと思う。

博和に言われた通りあるいはそうなのかもしれない。

そう思える節が幾つも在る。

僕はそっと障子を開けて部屋に戻った。寝息を立てる啓人たちの横を抜けて自分の布団に潜り込んだ。そしてあっさりとその温かさに意識を奪われた。





はっと気付いて僕はまた留姫の額のタオルを水で冷やして元に戻した。そうする必要があったかは最早判断がつかないけど、というよりこの時僕が何をしていたかさえよく分からなかったけどそうすることで僅かに僕の意識は保たれた。

はっきりと口に出すことも自分の中で明確に意識するのも怖かった。何で怖いのか今の僕には分からない。それは多分僕がまだ子供だから、だと思う。

博和に言われた通りあるいはそうなのかもしれない。

そう思える節が幾つも在る。

僕はそっと障子を開けて部屋に戻った。寝息を立てる啓人たちの横を抜けて自分の布団に潜り込んだ。そしてあっさりとその温かさに意識を奪われた。











はっと気付いて僕はまた留姫の額のタオルを水で冷やして元に戻した。そうする必要があったかは最早判断がつかないけど、というよりこの時僕が何をしていたかさえよく分からなかったけどそうすることで僅かに僕の意識は保たれた。

はっきりと口に出すことも自分の中で明確に意識するのも怖かった。何で怖いのか今の僕には分からない。それは多分僕がまだ子供だから、だと思う。

博和に言われた通りあるいはそうなのかもしれない。

そう思える節が幾つも在る。

僕はそっと障子を開けて部屋に戻った。寝息を立てる啓人たちの横を抜けて自分の布団に潜り込んだ。そしてあっさりとその温かさに意識を奪われた。






























はっと気付いて僕はまた留姫の額のタオルを水で冷やして元に戻した。そうする必要があったかは最早判断がつかないけど、というよりこの時僕が何をしていたかさえよく分からなかったけどそうすることで僅かに僕の意識は保たれた。

はっきりと口に出すことも自分の中で明確に意識するのも怖かった。何で怖いのか今の僕には分からない。それは多分僕がまだ子供だから、だと思う。

博和に言われた通りあるいはそうなのかもしれない。

そう思える節が幾つも在る。

僕はそっと障子を開けて部屋に戻った。寝息を立てる啓人たちの横を抜けて自分の布団に潜り込んだ。そしてあっさりとその温かさに意識を奪われた。















































はっと気付いて僕はまた留姫の額のタオルを水で冷やして元に戻した。そうする必要があったかは最早判断がつかないけど、というよりこの時僕が何をしていたかさえよく分からなかったけどそうすることで僅かに僕の意識は保たれた。

はっきりと口に出すことも自分の中で明確に意識するのも怖かった。何で怖いのか今の僕には分からない。それは多分僕がまだ子供だから、だと思う。

僕はそっと障子を開けて部屋に戻った。寝息を立てる啓人たちの横を抜けて自分の布団に潜り込んだ。

ような夢を見た、ような夢を見た、気がした。

多分僕は留姫を。



そうなんだ。
















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体の感覚が戻ってきたところで漸く体を支えようとしてるのが右腕だって事に気付いてでも右腕にもそんなに力が入ってなくて、左腕に固く引っかかってるものが私の体勢を保ってるってことが分かってきた。


「留姫!」


はっきりと健の声が耳に入ってくるまでに何分たったんだろ。十数秒程度にしか満たないってことに薄々感づいてながらしらんぷりをした。健の声が聞えて同時に気持ち悪さが戻ってきた。何か胸の辺りまで込み上げてくるのを感じながら私は言った。


「ちょ、っと立ちくらみ」

「大丈夫、分かってるから」


はっきりと喋れたか自信なかったけど、健ははっきり答えて私の体を支える腕で力任せに引っ張り上げてゆっくりと元の場所に私を座らせた。出した声が擦れていたってことももう随分前から分かってた。それを私が隠してて健にはバレてるんだってことも。


「調子悪い、んだろ。だったら無理してまでここに居る理由はないじゃないか」

「私が何処で何してたっていいじゃない」

「良くなんかない」


健の強い口調に驚いて私は健を見上げた。いつもの、真面目に何か考えてますって顔じゃなくてぱっと見穏やかなんだけどなんかそれだけじゃない雰囲気を持ってる。いつもなら諭すみたいなちょっと自分のほうが上だって思ってんじゃないのってくらいのムカツク言い回しをするのに今はもっとストレートに喋ってる。

健は冷静に見えて案外怒りっぽいところがある。それも怖いくらい激しく怒る性質の悪いタイプの怒り方。人間怒ってるときは相手の何の話も聞こうとなんかしない。そーゆー奴ってすっごい嫌いなんだけど、でもそれに反撃できない自分も嫌い。くやしいけど心配掛けておいて偉そうなことはあんまり言えないし、そうでなくても健より正しいって思える意見も出てこない。


「帰りたくない」


考えて考えて考えて漸く出た言葉がそれ。自分でも阿呆くさいってのは分かってた。でも何もない。倒れそうなくらい疲れてたし、寒いし、頭痛かったけどなんか今の自分を表現できそうなものが見つかんなかった。ただ、気持ちの整理が付かないまま何もしないってのは性に合わない。多分そのとき考えてたのはそんだけ、だと思う。


「それで帰らないで何をするんだ?」


言われてみたらもっともな話。実際に帰るのを先延ばしにして結局何もできてない。それをもう一回繰り返したって何か分かるわけでもない。保障もない。全部が全部私の間違い。でもそれを認めたくない。そういう我が儘。

沈黙。沈黙。沈黙。それから何か考えてる感じの健。何も言わない私。何も言えない私。何を言っていいか分からない感じの健。何を言うのか私は知らない健。また沈黙があって、それから健が言い始めた。


「僕もさ、時々不安になることがあるんだ」


急に健の口調が元の落ち着いた感じに戻った。何だって思うよりも背筋がピリッとした。


「実際に何か問題が起こったわけじゃない。でも、ただ何でかこう、デ・リーパーが出て来た時みたいな、火にかけたお湯がだんだん沸騰して泡立ってくる、みたいなそんな不安が胸に込み上げてくる。込み上げてくる不安の理由も原因も分からない。

後一歩でその説明が付きそうな時もハッと気付くとまるでそれが夢だったみたいに忘れてしまう。全部失くして逃げ出したくなることも在る。でもそれは本当は失くしちゃいけないもので失くしてもまた自分のところへ戻ってくるものなんじゃないかって…

それに逃げ出したっていく場所なんてない。逃げ出すきっかけだってなかなか見つけられない。僕自身がそうだから何となく留姫の事も想像できるんだけど、でもそうだろって押し付けて聞いたりとかはあんまりしたく、ない。

僕等の中で誰が一番辛い、なんてことは考えたことはない。全くって訳では、ないんだけど、でも出来るだけ考えないようにしていた。辛いのは皆同じだから。

ただメールでも言ったけど、留姫は一人でも何でも解決しよう、って思ってしまうタイプ、だと思うから。自分で、より辛くなってしまうんじゃないかって心配してた。多分…僕なんかより、ずっと辛かったんだよね、実際にそうだったよね。
…ゴメン、早くに気付けなくて」

たった今気付いた健の癖が三つある。喋りながら言葉をまとめようとする時には目線をどっか遠くにやって握った右手の親指と人差し指を顎に当てる。何か言いたいことがはっきりした時には目を真っ直ぐにこっちに向けてくる。それが少し辛い。

それでもう一つの癖もそれにつられてるんだと思うんだけど、言葉の一文一文で必ず終わりごろになるとだんだん早口になってくる。それに相手がちゃんと自分の話を分かってるか確認するみたいな自信のあんまない丁寧な語尾が付く。ちょっと言葉を濁してたりもする。

出会ってからもう一年近くも経つのに今更気付いた。正直私はよっぽど人のことをよく見てないんだって思った。同時にふらふらした頭は逆に変なところで冴えてるって気付いた。でもちゃんと働いてる訳じゃない。なんか催眠術にでもかかってるみたいな気分。そんなのかかったことないけど。

私は黙ってうなだれ続けた。健は続けた。


「うん。だから気持ちの整理が付かない、ってことも僕は分かる気がするんだ。というより整理なんてつかないものなのかもしれないけど。だけどこのまま立ち止まったままではいけないんじゃないかな?本当のことなんて分からないけど、でも何にしたって僕等はもうお父さん達に心配をかけるべきじゃない。怒っているんじゃないんだ。僕はただ―――――」

「偉そうに言わないでよ!」


私は健の言葉を遮った。なんだか余計なことまでいっちゃいそうな気がする。でも口は動いたまま止まらない。自分が、遠い。


「アンタの言ってることは正しいわよ。改めて言われなくたってわかってる。心配掛けちゃいけないのも、一人で抱え込むのも無理するのも全部あんまし良いことじゃないって私だってそれぐらい分かる。そう思ってる。でも!あれも正論、これも正論、全部正論だって、私は認めない、認めたくない。納得も出来ない!

だって、あれだけ…頑張ったんだよ…。戦って傷ついてやっと勝って、それなのに私達には何も残ってない。その上レナモン達ともお別れしなくちゃいけなかったなんて。最初はお父さん。それから友達って呼べそうな人、それでレナモン。私は何回大切なものを失ったの?後何回失うの?何回裏切られるの!何回諦めなきゃ行けないのよぉ…。

アンタ達だっていなくなるかもしれないじゃない。いなくならないって言い切れるの?無理でしょ。こんな世界なら、こんな世界なら欲しくなかった!アンタに私の気持ちなんて分かる訳ない。色んなものに恵まれてたアンタなんかに!」


立ち上がって今度は目眩がしないで最後まで言い切った。でもどうせなら途中で喋れなくなって倒れて気絶した方がよかった。そうすればヒステリックに言っちゃいけないことなんて言わずに済んだのに。それに少しの間だけでもモヤモヤズキズキした気分の悪さから逃れられた。

言い終わってから直に健の右肩がビクンと反応した。後になって考えてみると、それはもしかしたら私を叩こうとしたから反射的に動いたのかなって思う。あれだけのこと言われたら普通、誰だって怒らない訳ない。

その時の事を私は今でも反省している。暴力を振るったりすることを嫌う健を、そんな風にさせるまで追い詰めたんだって。でもちょっと言い訳っぽいカモ、なんだけど、私は熱の所為でいつも以上におかしかったんだと思う。でなきゃ人として最悪。いっそ死んじゃったっていいくらい。

暫くの間私達は身動き一つ取らないで立ち尽くしてた。私達二人だけ時間が止まってたような気もする。少し遠くで車の走り去る音が聞こえてゆっくりと降り続けた雪が白い絵の具を景色に付け加えて私の心を冷やしてった。

そのちょっと前辺りから、健が長いこと話し続けてた頃から私の意識はちょっとずつ薄れてきてた。空も地面も雪の色に埋め尽くされるみたいに。


「どんなに分かるって言ったって誰かの気持ちを僕なんかに理解しきれるなんて考えたことはないよ」

「嘘だよ!今そう言ったじゃん」

「嘘じゃない」

「じゃあなんで…」

「だって、だからこそ誰かの気持ちを、留姫の気持ちを、理解しようと努力したりできるんじゃないのかな…?少なくとも、僕は、そう思うよ」

「そう……なの?本当に?」


不思議がって、戸惑って、疑って、でもなんだか私はその言葉に妙に納得した。私には少し難しくてあんまり深く意味が分かる言葉じゃないけど、でもとても健の健らしい感じのする、凄く想いっていうかなんて言うか、   

そういうのが込められた言葉だった。強く心に響くって大げさな感じは無いけど、ジィンって感じはした。


「僕だってまだ全部を理解できたわけじゃない。だから、断定的なことも、何一つ言えないんだけれど、でもだから可能性…を信じたいんだ」

「やだ。そういうのとか全部やだ。不安なんて全部消したい。失くしたい……会いたい。別れたくない。レナモンと、健と。皆と。信じたって約束したって仕方ない。ちゃんとした、証明できるものが欲しい」

喋り続けてるうちになんだかふわふわしたものが体の中から込み上げてきた。力が抜けてきて、座り込んだ。体が浮かぶような感じと一緒に、私はその場で横になった。ホームレスが沢山横になるような場所だからあんまし気分のいいものでもなかったけど、私を支えてくれた手がふわふわしたものに思えて気持ちよかった。

健は後で何も言わなかったけど、私はその時多分泣いてたと思う。だから私はレナモンの夢を見て眠った。


『一人は…もう嫌…』





「どうも有り難うね、お疲れ様」と労われて、勝手知ったるらしい留姫のお母さんの仕事仲間の女の人に案内された広い居間に思いきり体を寝そべらせてから漸く僕は自分の疲労の度合いに気付いた。思ったよりも体が重たい。


考えてみれば僕が学校を抜けてから今まで少しも気の休まる時間なんてなかったし、休むことなく動き回ってたから当然といえばそうだ。逆によく体が保ったな自分で驚くぐらいだ。体は日頃鍛えておくべきものだと思う。

医師の方によると心配されてたインフルエンザではなく単なる疲労から来る風邪だろう、ということだった。長いこと外の風に当たっていたことで熱が39度3分まで上がってはいたもののそれでなかったことは幸いだった。

留姫のお母さんはまだ抜けられない仕事が在り、おばあさんは海外旅行ということだった。それに結局留姫のお母さんの仕事仲間の人も予定があって帰ってしまって家には誰もいない事になったから、お節介な事に僕らは泊り込みで看病をするということに決めた。不思議と誰の親も反対はしなかった。

あの後僕は予め連絡していたお父さんに留姫を自宅まで連れて行ってもらった。余談的な話になるけど、付き添いで同乗した僕以外は気の毒ではあったけど中央公園の寒空の下で暫く待ってもらうことになった。勿論後でお父さんに再び迎えに行って貰ったけれど。

ひどく無気力で、だれて寝転がる姿はテリアモンと同じだった。音も出さず身動きもしないでただ天井を眺めているだけ。功夫(カンフー)にこんな精神統一の仕方はないけどなんだか少しだけ悟りみたいなものを開けた気分になった。このまま誰もが僕を放っておけば重力で潰されていたかも知れない。

案内されたときに電気のスイッチの場所を教えて貰ったにも関わらず僕は電気を着けないままでいた。その方が気分がよかった。なんとなく暗い部屋の方が落ち着くのは僕だけなんだろうか、とか思いながら完全に締め切らずに少しだけ開いていた台所と繋がる襖(ふすま)から漏れる光に照らされた右手をじっと見続けていた。指を動かすと何かの虫のようにも見えた。

自分がどれだけのことを留姫に言えたのか、それが本当に正しいことなのか、そうじゃないのか、少し怖くて自信がない。なんだかんだと言って、留姫も、僕自身もただ色々誤魔化してただけかもしれない。なんて考えてみても僕にはあれ以上の結論は、多分、出てはこない。多分、きっと。


「健、お疲れ?」

「ああ、無問題、流石に疲れはしたけど大丈夫」


割りと意識しないまま無問題、という言葉がでた。特別な理由はないハズ、だと思う。ただ本当に口を衝いた感じだった。それが今の僕にとってはとても大事な言葉だとしても。

お母さんがいたら叱られそうな足で襖を開けるということをした啓人は僕に話しかけてきた。啓人は大きめの四角い板を持っていた。それがおぼんであってその上に四つのスープが置いてあることに気付く前に「ちょっと危ないから電気つけてくれない?」「うん、分かった」というやりとりがあった。


「これ家で一回作ってきたんだけど、ちょっと冷めちゃったから今温めたんだ。体の温まるものとにかく色々入れてきたらこれ飲んで温まってよ」


そう啓人に言われてから、まだこの部屋のストーブをつけてないことに気がついた。そういえば吐く息はだいぶ靄掛かっている。


「啓人、これ自分で作ってきたの?」

「うんそうだよ。それほど難しいものでもないからね。急いでたからちょっと手抜きなところもあるけど、でもまあ飲めるぐらいにはなってる、と思うから…へへっ、大丈夫」


啓人に料理が出来たってことを僕は知らなかった。手抜き、って啓人は言ったけどとんでもない。肉も野菜もきちんと切られててとてもおいしそうだった。薄く琥珀色というらしい色をしたスープの中にお母さんが作るような具が沈んでいる。僕にはその具のどれがどれだなんて判断がつかないぐらいなのに。


「凄いな、啓人」

「門前の小僧のナントカってやつだよね。あれだけ毎日色々作るの見てたり手伝ったりしてれば流石に少しぐらいは出来るようになるよ」

「…あぁ、そうだね。僕なんかはそういうのはあんまりしたことないから」


留姫は料理とかできるのかなと、少し別のことを考えていた所為で少し聞き流してしまったところがあったけど、とりあえず適当に繕って誤魔化した。


「やった」

「へ?」

「だってさ、勉強も運動も僕、ほとんど健に敵わないじゃない。だからこいうところでも勝てたら嬉しいなって思って」

「へぇ、そう、なんだ」


やっぱり啓人らしく誇らしげに笑って、遠回しの、多分啓人自身は気付いてない自慢をした。僕は人よりそういうことをあまり考えたことがなかったけれど、啓人は啓人で色々思うことがあるんだなと少し納得した。

スープは啓人の言う通り飲んでみるととても体が温まって落ち着く気がした。ふいに僕は一人でないくて良かったという想いが心を掠めた。もしそうじゃなかったら僕は、ずっと腐り続けてたに違いない。


「健はさ、もしかして留姫がこうなった…のは自分の所為、っちょっと思ってない?」


僕の横に腰を下ろした啓人はトーンを少し落とした真面目な声で僕にそう尋ねてきた。


「そう、見える、かな?」


スープの水面に揺れる僕の手が作り出した波を眺めながらさも心外だって風を装って答えた。図星だった。

留姫を探してる最中、僕はずっと自分がもっと気遣ってあげられたらと自虐的に思ってた。本当は僕がどうこうしていたからどうだ、なんてことじゃないのだろうけれど、皆も留姫もきっとそうじゃないって言ってくれるんだろうけど、でももし、僕が気付いてあげていたら、また、今とは少し違っていたんじゃないかって、そういう思いが拭えなかった。


「留姫も健もすごく思いつめちゃうみたいだから。だから僕、とっても心配で」

「情けないな、僕は」


あんまり口にするようなことでもなかった。でも啓人には聞いて貰いたかった。僕の悩み、痛み。今は僕は自分がよく分からないぐらいで、どうしたらいいのかどうもしないほうがいいのかなんだかとにかく苦しい。僕は喋った。


「僕はずっと、自分で皆をサポートしなきゃって思ってた。僕は皆より色んなことを知ることが出来る位置にいるし、どっちかっていうとそんなに前に出るのが得意じゃないから後ろに引いた場所で支柱っていうか、支え?みたいな、まとめたりしなきゃって、そう…思ってた」


語尾が弱くなっていたのは自分でも分かってたから途中啓人にどう思われたか不安で一瞬だけ啓人のほうを向いた。啓人はただ真面目な顔をして黙ってこっちを見返してきた。視線を戻して僕は続けた。


「でも僕はそう気負っていただけで実は何も出来てなかったって分かった。比べてどうだって訳じゃないんだけど遼さんの方がもっと皆のことを思っていたし、僕はだから、ただ無理してたってだけで、こうして啓人を心配させてしまって、結果的には何もしてなかったのと、同じ」


言いたいことがこれで足りたような気もするし、でもまだ言うべきことがあるような気もした。自然と溜息がでた。僕は自分が思っていたよりも疲れてたのかもしれない。


「そんなことないよ、絶対に。だってそう思えたからあんなに頑張って探して留姫を見つけられたんじゃない。なんか、うまくはいえない、んだけど、そうやって考えたりできるのが健の凄いところなんだよ。自分の悪いとこなんて普通そんなに分かったりするもんじゃないもの」


何も、言えなかった。啓人は僕よりもいくらか背は低いけれど、僕よりもずっと大きな考えを持ってる。だからこんなにも僕や皆を引き付けて、いつも強くいられるんだ。


「啓人」

「何?健」

「有り難う」


有り難う啓人。親友でいてくれて。


「健、僕からも有り難う。さ、スープ飲んじゃおうよ」


僕は黙ってスープを啜った。途中で博和と健太が分担を終えて合流したけど、眠っている留姫を気遣ってそれほど大きな声じゃないにしても会話を楽しんでとしても、当の留姫はゆっくりと夢を見ていたとしても、啓人は敢えて僕に気付かないフリをしていたとしても、僕は黙ってスープを啜った。


スープは啓人の言うとおり僕の心を温めて落ち着かせた。手抜きといっていたようにスープは味が少し濃くて、飲むたびに少しずつと味が濃くなった。スープはとてもおいしかった。







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うぉお、寒っびぃな。鼻が凍るっつーの。ったく時間も凍っちまったのか?いくら待っても時計の針が進まねーぞ、どーしたコラ。啓人もまだかよ、外は寒いんだよ。っかぁー、まだ来ねぇよ。本当にどうしてんだあいつ。

…しかしあの元デジモンクイーン様がねぇ。ま、元々協調性のねぇ奴だったからな、サボリなんてのもありえないことはねぇな。重要なのはそこじゃねぇけど。

真面目(マジ)な話すっと、人に弱みを見せるようなタイプの奴でもねぇんだよな。悩んでないようにするってのは考えてるよりも難いだろうによ何であんなに意地張るんかな、俺には分からねぇ。

はぁ〜、まだなんか俺らと距離とか感じてんのかな。そりゃわからないでもねぇよ。あいつの一番信用しているレナモンは向こうの世界に還っちまったからさ、俺達とはそこ以外で殆ど繋がってなかったしなんかあれ、友達、みたいな感じはしないんだろうな。

でもヤバイとこ一緒に行ったってことに変わりはないし、助け合ったりもしたろ。俺と健太は主に迷惑掛ける係りだったけどさ。でもよ、健や啓人でさえ寄せ付けないんじゃあいつはこの後どうするんだよ。無理して一人で居るよかつるんでたほうがよっぽど楽しいっての。デジモンの皆と別れたときも、レナモン離れたくない、とか言って誰よりも泣いてたくせによぉ。


「博和、何小躍りしてんの?」

「良いですね、コレステロールたっぷりの健太君は。寒い冬にも難なく過ごせてね」

「煩いよ、ただ聞いただけじゃんか」


両手で両方の二の腕をさすりながら地団太踏む俺はまぁ確かに変な小躍りをしてるけど。しかたねーだろ、マジで寒ぃんだもんよ在り得ね寒さだぜ。ってか早く来いっつーのあのアホよー。ほら息白いぜ、すげ、すっげーゴジラみてー、ゴジラの映画見てー。

でもま、冬が寒いっつーのも夏が暑っちいのも俺的には嫌いじゃねぇんだよな。なんつーんだ、季節感ってやつよ。多分そんな感じの、そういうのが結構好きなんだな。

デジタルワールドじゃ季節を意識することは無かった。寒いとこ行けば寒いし、暑いとこ行けば暑い。地球を丸ごと縮めたみたいな場所だったからすっげー変な感じだった。でもま、そういう感じも嫌いじゃぁないんだよなこれがさ。だってよ、日本に居たらデジタルワールドの感じは味わえないだろ。逆にデジタルワールドじゃ日本の良いのはわからねぇ。春に秋の食い物が食えねってのと同じだよ。

そーゆーそれぞれにしかないもん?そういうのを見たり聞いたり触ったり嗅いだり味わったり感じたりするのは結構面白いもんだ。それでも長いこと待たされんのはゴメンだぜ。死にそうなくらい寒いぜ、嘘じゃねぇよ。

とかなんとか考えてるうちにやっと、啓人の奴がやって来た。なんでかリュックを背負って肩にどでかいポットを提げてやがった。なんだよそれ、いいもん持ってんじゃんよ。


「二人ともお待たせ、ゴメンねこっちから呼んどいて」

「電話で呼ばれて来たのはいいけでいつまでも待たせるんだもんな。博和なんかすねてさっきから俺に当たってくるんだよ」


走ってきて息を切らしながら啓人は変に色々荷物を抱えててなんだか完全武装みたいな感じになってた。昼の時の雰囲気からなんかあんのは想像できたからそこそこ準備してでてったのに、啓人はそれいじょうに色々持ってた。


「それよかよぉそれの中身、何なんだよ。茶か、あったかい茶か?」
俺と健太は群がるようにそのポット、っつーか半ば湯たんぽ扱いのそれに集まった。手袋の上からも熱が伝わってくる。こらあったかいわ。

「う〜ん、中身は、まぁ後で。皆一緒になってから飲もうかなって思ってもって来たんだ」

「むかつく奴だな、こんだけ待たせといて」

「本当だよ。今になって急に冷え込んできたし、今日そろそろ雪降るらしいし」

「それはゴメンってば。多分怒ってるだろうなって思ってこれもって来たから」


俺らの不満をさらっとスルーして啓人はリュックの外ポケから袋を数枚取り出した。


「これ予備も渡しとく。留姫もそうだけど、僕からしか連絡取れないしそれだと健は留姫探すの止めないだろうから健に途中で連絡来たり会ったりしたら渡してあげて」


次々とがさがさ取り出したそれはまぁ早い話ホッカイロで2リットル入りの啓人のポットの湯たんぽの中身を見せない代わりにしろってことらしい。こいつは本当にこういう細かい気を回すのが好きだよな。気が付きゃ裏でせこせこ色々やってんだよ。


「おい啓人、もうなんだ細かいことはすることねぇな」

「あ、うん。僕から皆にはちょくちょく連絡入れるからなんか変わりがあったら教えて」

「そっか、啓人は携帯持ってないんだっけ」

「よそとは違うって言って買ってくれないんだよなぁ」

「啓人ンとこは結構母ちゃんが堅いもんな。オッケ〜ィ、ほんじゃささっとあのじゃじゃ馬見つけますか」

「博和それ本人の目の前じゃ言えないだろ」

「うっせ〜よ、あいつ直ぐ蹴りいれてくんだよ。ほれさっさと行こうぜ」

「あ、ちょっと待って」


痛いとこつかれて早く逃げようと振り返りかけた俺を啓人は引き止めた。半端な体制で首だけ後ろに向けて「なんだよ」と俺は返した。健太もなんだ、って顔をしてた。


「…あのさ、なんか。健太、博和。なんか、ありがとう」

「何だよ急に」


複雑な表情をした啓人が戸惑いながらそんなことを言ってきた。言いたいことをちょっと誤魔化した感じのそれの言い方はなんとなく言いたい内容を俺に伝えた。ったくよ、啓人の奴。


「おい馬鹿!」

「な、なんだよ、急に」

「お前が今俺らに礼を言う理由がどっかにあっか?ダチが困ってっから助けるってだけだろうよ。俺達も健も留姫も、あ〜とにかく俺らはテイマーズだろ。いちいち気にすんな。もっとラフにしてりゃいいんだよ。もう何も言うな。ほれお前らデジヴァイスだせ」


俺は腰のデジヴァイスを取り外してぐっと前に突き出した。健太も啓人も煽ってそれにならわせる。三人でデジヴァイスを突きあう形になって俺は言った。


「馬鹿やんのもマジやんのも一緒だろ。俺はこうなんか仕切んのは得意じゃねぇけど、あ〜俺らは全員絶対ぇダチのまんまってのは忘れんな。ん〜、え〜、っらぁ!」

「え?あ、らぁ〜」

「お前なんかもっといいこと言えないのかよ」

「浮かばねぇよ。とにかくあれだ俺のいいたいのはあんま無駄に気なんか回すなってことよ。んじゃ行こうぜ」


自分で始めておいて結構恥ずかしいことになっちまった。俺的には格好いいこといって円陣組んでオー、ファイッ。みたいになる予定だったんだけどよ。なんかぐだぐだしちまったよ。やらなきゃ良かったかね。

でも啓人と健太と目が合った時にそんなん無駄な考えだったって分かった。以心なんとかってやつ。

俺らは自然と手を出してデジヴァイスを持った手でがつっと腕をぶつけ合った。そうそう、こういう感じのをやりたかったのよ。あ、なんか今俺ら格好よくね?あんまし俺が言ったらまとまるもんもまとまらねぇな。真面目にやるってのは俺の性に合わねぇ。

なんてそんなこんなでとりあえず俺らは散り散りに留姫の居場所を探すことにした。まずは駅近くから探すか。





「あぁ、くそ」


傍若無人に近くの花壇の縁に座り込むと、少し荒い気持ちで掌に拳を打ちつけた。頭を掻き毟って空を睨み付けた。景色はそろそろ暗闇に色を奪われて、それでも空だけは綿のように白かった。きっともうすぐ雪が降る。

僕が留姫を探し始めてからもう三時間は経つ。啓人からは博和達がそれを手伝ってくれているということを聞いたけど、正直それでも見つかるなんて思えないぐらいだった。

こうしてみて初めて僕は留姫の普段のことをまったく知らないってことに気付いた。分かるのは何処の学校に行って、何処の家に帰って、普段は学校の間中も終わった後も一人で何処に向かってから家路につくのか分からないということだけだったんだ。

あきらめるなと自分を奮い立たせてみようとしてもこうも違いがはっきりしているとその意志も挫けてしまいそうになる。留姫を探すには情報も人手も足りない。でも自分でやろうと決めたことだし、やらなきゃいけないことだって分かってるから僕があきらめちゃいけない。

でも僕が留姫にしてあげられることって何だろう。まだ啓人にも言っていない留姫を探さなきゃいけない理由が僕にはあるけど、そうした後に僕は留姫になんて言えばいいんだろう。

留姫の気持ちは、痛いほど分かる。だからそう簡単に大丈夫だなんて言えない。きっととか多分とかそうだろうとかそういった言葉で誤魔化すしか僕には思いつかない。

誤魔化すならだけならもうそれも僕の力では仕方の無いことなのかもしれないけれど、でもそれ以上に怖いのは留姫の事を傷つけてしまわないかって事。今の留姫なら、いや、いつもの留姫だってずっと小さなことで傷ついてしまう。だから僕は―――――

不意に、テリアモンの声が聞こえた、気がした。でも本当に聞こえたはずなんか無い。でも一瞬だけ、ほんの一瞬だけ僕を呼ぶ、そうなんじゃないかって思える声が聞こえた気がした。

何でそれをテリアモンの声と思ったのか後になって考えてみてもよくは分からなかったけど、きっとそれはデジタルワールドからの導き、みたいなものだったんじゃないかって僕は思う。テリアモンの声のように聞こえたものはデジヴァイスのデジモンを指し示すときに鳴るアラームだった。


「そんな…まさか。…デジタルフィールドはもう存在しないはずなのに…」


拡大してホログラム化されたデジヴァイスの液晶画面にはデジモンに反応してその方向を示す矢印がグルグルとあたりを見回す姿があった。意識が別のところへ飛びかけていた僕を気にもしないで矢印の振れは次第に治まり、一定の方向を指し示した。ただ画面は時折揺らいで、今にもその機能が失われそうなほど頼りなく薄らいでいた。そう、それは今の僕達のように不安定にゆらゆらとでも確かにここに漂っていた。


「本当にデジモン、なのか?そしたら山木さんに…いやこの分じゃもうリアライズしてる、はず。強いデジモンなら通常兵器じゃ…倒せない」


自分でも独り言をしていることをはっきりと分かっていた。あのころだったら、それでもテリアモンが無問題と言って僕を困らせたりしていたはずだけど。

真っ先に案じたのは大事な家族の事。それから留姫、啓人、博和、健太、他にもたくさんの僕の大事なもの。落ち着いて考えようとしても何も分からず、ただ僕のデジヴァイスはデジモンの反応を示してることだけが事実だった。

何で、デジモンが、何でこんな時に、何でこんな場所に、何で僕達ばかり、何でこんな目にあわなくちゃならないんだ。考えたって分からない。僕はただデジモンが好きなだけなのに。

またしてもテリアモンの声が聞こえた。今度はさっきよりもはっきりと。空耳とは思えなかった。聞き違いでもない。確かに頭の中に響いている。これは単なるデジモン反応じゃない。確信は出来なくてそっと呼びかけた。


「テリアモン、…君なのか?」


僕の問いかけに呼応するようにデジヴァイスがピコンピコンと機械音を発した。間違いじゃない。勘違いでもない。確かにこれはテリアモンなんだ。

僕はずっと不思議だった。何故テリアモンが始めて僕と出会ったときから僕のことを知っていて、無問題という中国の言葉を話すことが出来たのか。僕はそれを理解すること、自分を納得させられる説明をすることができなかった。でも今この瞬間ならなんとなく分かる、気がする。

テリアモンが向こうの世界にいるときにテリアモンは僕からはパワーアップのカードのデータしか受け取っていなかったはず。でもテリアモンはこちらの世界に出てきて直に僕を認識した。

きっとテリアモンは向こうの世界にいながら何となく、プレイヤーである僕の存在を何となく、感じていたんだと思う。

僕はそんなに色んなことを人に伝えるって事が得意じゃないから普段はそんなに喋ったりとかはしなかった。でもゲームをやるときはもっと自分に拘ってるから「行くんだ」とか「倒せ」とか「無問題」とかよく言っていた、多分そうだ。いや、きっとそうだ。だからテリアモンはその言葉を分かっていたんだ。

テリアモンは自分を認識してる僕という存在を感じながら生きていて、だからきっと僕を選んでこの世界に現れてくれた。そのときのカードリーダーは今デジヴァイスという形で僕の手元にある。ブルーカードをスラッシュすることでテリアモンはリアライズした。となれば僕がすることは一つだ。

いつでも持ち歩いているカードケースからカードを取り出した。
僕はこうやって何時でも君に会う準備をしてる。


「カードスラッシュ!ブルーカード!」





 デジヴァイスの溝をカードがスラッシュされてゆく。カードをスラッシュしているのは僕、だけどなんだかカードが意思をもって自分でスラッシュしていっている気がした。眩いスラッシュの光がカードから、デジヴァイスから放たれた。

カードスラッシュの光に包まれて極普通のデジモンカードは青いプリズム仕様のカードに姿を変えた。このカードが何度も僕達を救ってくれた。でもこのカードを生み出したのは僕達自身なんだ。

デジヴァイス放たれた光が飛んでいった。それが向かう先に何が在るのか僕にはもう分かっていた。デジヴァイスは揺らぐことなく光の向かった方向へ矢印を示していた。

三度テリアモンの声が聞こえた。ついていくよ何処へだって。君と皆と一緒に居られるなら。僕は走った。

啓人みたいにいつも一緒に居たいっていう訳でも自分は自分相手は相手っていう留姫みたいな訳でもなく、僕らは一緒に居るのが当たり前って関係じゃなかった。

でもいつも一緒にいたいと思ってそれがどんなに幸せか分かっていた。君は最高のトモダチ。きっとこれから出会う誰よりもずっと。僕等はまだ君達に会えない。今はまだ。だからそれまで待っていて、僕は僕に出来ることをするから。

新宿中央公園の寒さでホームレスが他の場所に移った滝前の広場の階段にただ一人で佇んでいた。茶色のダッフルコートを着た小さな背中を丸め寒さに震えながら白い息を吐いていた。


「留姫、…やっと見つけた」

思っていたよりも僕が声をかけたことに対する反応は薄かった。それでも驚いてはいるらしくて体は前に少しだけ逃げる素振りを見せて細めた眼をこっちに向けてきた。


「探さなくていいって、言ったじゃん」


辺りには白い影がちらほらと舞い始めていた。





私、なにやってんだろ。

勝手にあっちこっち行ってみんなを振り回して、心配掛けて、オマケに私を探してくれた健に探さなくて良い、とか言っちゃって。馬鹿みたい、っていうか馬鹿、だよね。

本当は怖いくせに何も言えない。誰よりも寂しいって自分で分かってるのにただ黙って震えてるだけ。布団の中で歯をカタカタ鳴らしてるだけ。

言い訳ばっかりで誤魔化して、自分は強い人間だって思い込もうとする。本当はすっっっっっっごく、メチャクチャ〜〜〜〜〜に、弱い人間なのに。


「心配したんだよ、留姫」


私を見つけてくれた健は安堵と同時に悲しそうな顔もしてた。やめてよ、あんたの所為じゃないってば。全部私が勝手にやったこと。お願い、だからそんな顔しないでって言ってるじゃん。……

言っては、ないけど。


「ん?…あ、博和か」


なんだか聞き覚えのあんまりない着メロが鳴って健は博和からきたっぽい電話に出た。耳の奥がなんかざわざわしてて小声の健の低い声が何を言っているのかよく聞こえなかった。


「皆心配してるよ。留姫、帰ろう」

「えっ…あ、――――――ぅ…」


携帯を閉じて健はちょっと笑ったみたいな顔で私に言ってきた。でも言いたい言葉がなかなか出てこない。有り難う、ごめんなさい、寒い、つかれた、おぶってけ。多分それは喉がいがらっぽいからなんだと思う、寒くて口が凍りつきそうだからなんだと思う。


「大丈夫?歩ける?」

「子供扱いしないで!それに帰るとも言ってない!」


私は差し伸べられた手を思いっきり振り払った。こんなひどいことをしていてよく子供じゃないなんて言えるよね私。ただ単に優しくしてくれてるだけじゃない。何がいけないのよ、馬鹿じゃないの?


「ゴメン…どうも僕は気を遣ったりとかってあんまり出来なくて。こうやって小春とかもよく傷つけてしまったりする」

「謝んなくて、いい」

「え?――――――」

「悪いのは、私。そのぐらいは流石に、分かる。だから…ゴメン」

「うん、ゴメン」

「だから謝んなくていいってば」

「あぁ、ゴメン」

「だから!」

「ゴ…」

「もういい、ストップ!」


馬鹿みたいな言い合いを制して私はうなだれて溜息を付いた。気分はもう既に最悪なのにこんな阿呆臭いことなんかやってられない。自分で脈絡ないのは分かってる。だから最悪だって思ってるんじゃない。

けど今度は強引に話を止めた所為で健も私も黙りこくった。失敗したななんて思ってみても意味ないし、だいたいそもそもこの状況事態が失敗なんだからってどうにか話題を探ってみたけど何も浮かばなかった。でもよく考えると別になにか話をしなきゃいけないって訳でもないことに気付いた。

そもそも何よこの空気。探してたとか言ってたくせにその後どうするか特に何も考えてなかったんじゃない。そういう無計画なのが許せない。でも健が此処に来たのは私が原因なんだからそういう考えってのもちょっと健に悪いかなっても思ったり。あぁもう余計なこと考えさせないでよ。


「じゃ、もう帰ろうか」

「なんでそう!――――」


色々考えすぎた所為で頭がぐらぐらする感じを引き摺りながら立ち上がろうとした私はそのままその頭のぐらぐらに引っ張られて意識とは全然別の方向に倒れていった。

時々私は其処が何処だか分からない深く暗い闇の中に放り込まれたみたいな気分になることがあった。そこは完全に暗闇って訳じゃなくてちょっとだけ自分の輪郭が見えて、ふと上を向くと真っ白な、ううん、色がわかんない位に眩しい光が、何て言っていいか分かんないけど多分浮かんでる感じ。

やっぱり説明できないけどとにかく光が浮かんでる。見方によればそれは希望って風に見えるかも、なんだけどでも私にはちっともそうは見えない。ただ遠くで私に気付かないふりをして笑ってるだけの意地悪なもの。どうあがいても私じゃ触れることもできやしない。

寂しくたって私には輪郭があるから光にも届かなければ闇にも解けることが出来ない。気付けば声も出せないまま独りぼっち。

指先のジワジワがざわざわブルブルに変わりながら私の全身をゆっくりとした歩みで抜けていく。自分の体が在って全体的に左側に傾いていてそれを何かで支えているのが分かった。開いてるはずの目からは何も情報が流れてこなくて砂嵐の景色の中になんとか自分のことを認識してる。力がはいらない。入っているかも分かんない。

怖くはない。気持ち悪さもすっと無くなった。頭もなんかすっきりした。代わりになんだか色々なものが失くなった気がした。







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駅を一つ跨ぐだけで新宿って街並みはがらっと変わっちゃう。寒い空の下で立ちはだかる色んな種類のビルの群れが僕らの住んでいる街とは別の世界とでも言いたそうな顔をして僕らを見下ろしていた。人々は皆そんなビルに見向きもしないで早足に歩いていた。

都会の人はせかせか歩くと聞いたことがあった。僕は自分でそのことがよく分からなかったんだけど、今ならその理由がなんとなく分かる気がした。西新宿の高層ビルはここよりも高く聳えるものがあるけど、それとはまた違う、威圧感、じゃないのかなそんなものを感じる気がした。

デジタルワールドはこんなような小さな世界を繋げて出来てた。荒野の物理レイヤーにいくつも繋がって、そして空にはリアルワールド球が見えていた。今はもう街と街の間にある見えない壁よりも、世界を東と西に分けてしまったどっかの国の、ベルリンの壁よりももっと強くて硬い壁に遮られて行き来が出来なくなってしまったけれど。

僕達が留姫を探し始めてからもう既に二時間が経っていた。考えられるところは一応全て探してみたつもりだけれど、僕らが始めて出会った新宿中央公園でも、色んな戦いの会った新宿駅近くでも、留姫を見つけることが出来なかった。健の方でもまだ見けられてないらしいし。

同じ出来事でも、同じ境遇でも、同じテイマーズの仲間でも、物事の理解し方や受け止め方は違うって最近の健はよく呟いてた。健は価値観の違いってものを大事にしてて、だから今それを聞いて僕が思うのは留姫の心の変化を読み取ることは難しいし単純に理解したつもりになるのもよくないって健が考えているんじゃないかなってこと。

そういう風に健が言うってことは多分、僕等は分かり合えないんだってことを言って諦めてるんじゃなくて、もっと分かり合いたいって意思を持っているからなんだと思う。そういうのは、なんか健らしくていいことなんだろうな、って思うけど。けど、だけど今は…。

一人で何処かへ行っちゃった留姫。それを自分だけで探したいって言った健。僕には留姫だけじゃなくて健も凄く思い詰めてるんじゃないか感じられる。僕はそれをあんまり良いことだとは思えない。でもそれをうまく説明できるほど健みたいに色んなことを知ってるわけじゃない。僕が考えられるくらいの単純なことじゃないかも知んない。

でもやっぱり二人の為に、それに留姫の家の人の為にもやれるだけのことはしてあげたいしさせて欲しい。僕も同じような立場だからそういう言い方ってのはオカシいかもしれないけど。

冷たい風が顔を引っ掻くみたいに通り抜けた。思っていた以上の風の冷たさに思わず体が震える。小春日が午前中だけっていう天気予報に僕は納得した。

いつの間にか空は曇り吐く息は白さを増していて寒々しい空気は街中を埋め尽くしていた。流れていく人はもっと早足になって凍りついた水溜りは踏み潰されて罅が入っていた。僕はそれをもっと踏み潰した。靴の底のゴムが冷水で濡れた。

五時間目に抜け出してきたからもうとっくに授業は終わってるはず。健はあんまり人を巻き込むのはしたくないって思っているみたいだけれど、今はそれよりも留姫のほうを大事にしたほうがいいと思う。

こんなに寒い中にずっといたら風邪引いちゃうだろうし、見つけるのが遅くなって留姫の家の人や、僕達のお父さんやお母さんを心配させるのもよくない。それに健だって今色々やってて疲れているのに無理してる。

博和、健太ならきっと一緒に留姫を探してくれる。健が言うにはさっきだって事情も知らないのに助けてくれていたらしいし。でも僕はそれを聞いても驚かない。ああ見えて博和も健太も結構友達思いだから。

僕はもう一ついい事を思いついた。二人に連絡するのに一度家に帰らなきゃいけないし、ついでに色々と準備していける。健が僕で無いように僕は健じゃない。僕にもすべきこととかした方がいいこととかできることとか、色々ある。

僕は強くない、でもそれでいいんだ今はきっと。だから今出来ることをしたい。僕は来た道を真っ直ぐに引き帰した。




レナモンが向こうの世界へ行ってしまってから、私は随分スカスカした心を引き摺ってた。女々しいって言われるのは結構、嫌なんだけど、言われると多分否定、できない。それが情けない。

お祖母ちゃんのそのまたお祖母ちゃんの時からずっとあそこに在った私の家の縁側から庭を眺める時間が増えた。意味なく庭を歩き回ったりもした。廊下の奥に名前を呼びかけてみたり、なんか反応しないかなってデジヴァイスとずっとにらめっこしたりもしてた。だって、レナモンがまだ私の側にいるような気がするんだもん…。

もちろんそれが何の意味も成さないってことくらい分かってる。分かってるわよ、でもさ、だからって止められる訳ないよ。レナモンがここにいない事を認めることなんてできない。まだ私はレナモンがいなくならなきゃいけない理由、納得したわけじゃない。なんで私達頑張ったのに離れ離れにならなきゃいけなかったのよ。

そう…思ってた。でも全然違ってた。分かってたのに自分に嘘ついてた。私はただ独りでいるのが怖かっただけ。そのことに最近気が付いた。漸くって言い換えてもいいかも知んない。うん、漸く気が付けた。

レナモンに出会う前と後と、啓人達に出会ってからもう少しくらいまでは私は今よりもずっと寂しい人間だった。友達も正直いたかどうかも分かんなくて、少なくとも楽しい気分で誰かと会話したことなんて無かった。

それでも私的には寂しかったり悲しかったりっていう感情を抱いたことはなかった。それは私の心が乾いて凍って固まって何も受け付けなかったから。

今はその逆、健も啓人も博和健太も樹莉も小春もあの「爽やか光線」も一応、皆がいて凄く安心できる空間がある。けど、とっても寂しくて悲しい。苦しい。胸の奥がグルグルして気持ち悪くて、熱くて寒気がして目も乾いて口の中がカラカラで、喉がチクチクして指先がチリチリする。

一人じゃない方が寂しいって変だけど、多分こういうのが本当の孤独、なんだと思う。そう思うのは孤独じゃないってことがわかるからなのかな。

―――――何かそんな変なことばっか考えてる。

浮き輪から空気を抜いたみたいな音がして八両編成の巨大なモンスターが幾つも大きな口を開けて私達を飲み込んだ。通勤ラッシュの時間はとっくに過ぎてて今はその三分の一くらいしかお腹の満たされてないモンスターの危うくいけ好かない制服姿の高校生ぐらいの人間に取られそうになった座席に腰を下ろして張り詰めていた空気を口から出した。

座席にあぶれた人々が面倒臭そうに入り口の反対側のドアの辺りにたむろってここで喋るには大きすぎる声でぺちゃくちゃし始めた。そしてシルバーシートに座ろうとする若い人は一人もいなかった。あんまりどうでもいいことだけど。

プラットホームが寒かった分、車内に入った瞬間が少し暑く感じて、でも私は身震いをして靴を脱いで椅子の上に体育座りをして、着込んだ茶色のダッフルをもっと体に引き寄せるみたく抱きかかえた。僅かに背筋に寒気が走ったから背もたれに強く背中を押し付けた。十二個の繋がれた鉄のモンスターが上下にうねりながら進んでく。

窓の外を見ると、青かった空はすっかり白んでどこか私を見放すようなすっきりとした白で感情を埋め尽くし、右へ右へと流れ始めた景色は私だけを其処へ取り残し置いてけぼりにしていた。

もう十分に分かっていたはずなのに、世界が改めて私に独りぼっちだという事を認識させる。もう放っといてくれたっていいのに。構わないでいてくれたっていいのに。

レナモンも私も、お互いが凄く大切な存在だった。そう思えるまでには随分と時間を使っちゃったけど。でも気付けた時には、私にもこんな風な気持ちに慣れるんだって事が分かって凄く、とっても嬉しかった。

お互いがお互いを思い遣る、胸の置くがほわって暖かくなる気持ち。カードを使うのも、戦うのも、合図を送るのも、それを受け取るのも、心配するのも、守るのも、時には八つ当たりをしちゃったりするのも、困ったりするのも、優しくするのも、近くに居るのだって、遠くに居るのだって、そうした末に一つの体に成る事が出来たのだって、全部全部お互いを思い遣る気持ちが生み出しているんだって思う。

ちょっと偉そうに言い過ぎカモ、なんだけど、そういうのも共有したかった。してたかったよ。ねぇ、レナモンもそうだよねそう言ってくれるよね。なんてさ、馬鹿みたい。でももう会えないなんて納得したくないよ。会いたいよ、レナモン。

携帯が声も出さずに震える声に驚いて足を椅子の下にすべり落とした。車内の空調の一部だと思う脹脛目掛けて吹き出る温風が足元だけを絡みつくように暖めて私は身震いした。 もうちょっと静かに知らせてくれないかなとか思いながら鞄の外ポケットの中を探った。

ディスプレイには手紙のマークが表示されていて、見るとそれは健からのメールだった。

これで八通目。電話なんか二十一回にも及んでる。ああ見えて健は結構しつこいんだから。

駄目だよ、私になんか構ってちゃ。これは私が勝手にやってること。だから他の人に惑掛けるなんてことしたくない。心配してくるってのは嬉しい…かも、だけどでもやっぱ駄目だよ。ってかやだよ。そんなのやだ。

誰かが私を心配したって私のことなんて分かる訳ないっていうかさ、救われるってことないし。私だけ皆と違う。学校も違う、環境も違う、持っていたものも無くしたものも違う。皆とは別の世界観を持ってる。だから友情ごっことかそういうのは嫌い。中途半端に付き合うくらいならいっそ突き放すとか離れるとかして欲しい。

だってそうじゃなきゃ後で傷つくのは私なのよ?向こうはそれでいいのかも知んないけどさ、どうせそれにも気付かないような馬鹿ばかかりでしょ。だから自分のことは自分でやる。よけいなことあんまり考えさせないでよね、頭痛くなってきたじゃない。

また携帯が震え始めた。これが携帯が意思を持って寒がっているだけだったら凄く笑えるのに。なんて阿呆なこと考えてる時でもないよね。そろそろおかしくなってるかも。ともかく今のは健からのメールだ。


「んあっ」


どうせ同じ内容でしょって思って見るのも面倒で消去しようとしたけど、押し間違えて指定保護にした。


「あぁ、もう!」


何なのよ全くって思いながら保護を解除してもう一度消そうとしたのに、どんだけ頭が馬鹿になってるのか、全く同じ手順でまたミスった。自分の馬鹿さかげんに悶えて、結果やる気が失せて保護の解除だけして消すのを諦めた。


「メールもしつこくなってんだから」


軽く苦笑いしながら呟いた。そのしつこさに免じてこのメールだけは見てあげるわ。私は表示の項で決定ボタンを押した。


『留姫のことだからきっと一人で全部、って思っているのかもしれないけど、本当はそうじゃないと僕は思うんだ。留姫なら分かるよね。見つけて欲しくなったら連絡して。それまでずっと探しているから』


何かちょっと、くるものがあった。寒さとは違う鳥肌がたって、唇を噛み締めた。顔文字も絵文字も無い飾りないストレートなメールの打ち方がなんか健が喋っているみたいに見えた。レナモンと同じだ。いつも私に近づいて来ようとしてくれてる。私はそれを受け入れる状態をつくれてないんだけど。

私はもっとぎゅっと強く身体を丸め込んだ。大事なものを抱きしめるみたくして。携帯の画面を何度も見つめた。勿論書いてある内容が変わったら怪奇現象なんだけど、それでもなんでか何度も確認した。勿論書いてある内容が変わったら怪奇現象なんだけど。

言葉なんて曖昧なもんって私は思ってる。そういう意識が私の心の奥の、奥の、奥の、そのまたもっと奥にはある。いつか約束したことも人間は平気で破る。なんか今おんなじこと二、三回考えた。頭、回ってないなぁ。

どこかで見ているんじゃないのかって思うくらい私は健に見抜かれてた。周りを見渡してみてもビルの起伏とお互いによそよそしい人々しかここにはない。私は小さく自嘲気味に笑った。自分のしてることが下らない。

押し付けがましい声の車内アナウンスが響いた。次はもう降りる駅。私はこれを降りて私のやるべきことをする。…でもそれが本当にやるべきことなの?そもそも何をするために私はここへ来たの?何でここに…そうだ、レナモンを、ううん違う、そうじゃない。ニュースを、デジモンのニュースを見たから。それでレナモンの姿を――――――。

私はレナモンが、皆が向こうへ帰らなくちゃいけなかったなんて認めない。だから私はレナモンを探すためにここまで来た…?ううん、それも違う。嘘ついてる。

アンタはただ寂しいだけ。それを誤魔化すためにレナモンを、というかそのことを利用しようとしてるだけ。そうでしょ。レナモンはここにいないってちゃんと心の奥では意識してる。だから他に頼ろうとしているのよ。全く、馬鹿の極みよね。他って何に頼るの?おばあちゃん?ママ?それとも…お父さん?バッカみたい。

扉が開いた。ここはもう降りる駅。でも今降りて何をするの?逃げてばっかりで何が出来たの?これから何が出来るの?何も出来てないでしょ。違う?違くないじゃないのよ。




違うよ。私だって守ってきたものがあるもん。

誤魔化さないでよ。ただ怖いだけでしょ。

怖くない!怖くなんか…

ほら、また強がってる。

強がってなんか、ない。

そんなの意味ないのに。

意味あるとかないとかそんなんじゃない。

自分の中を見られたくなくて言ってるんでしょ?

違うってば!

認めて良いんだよ。全部。分かってるんでしょ?