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社会不適合なまいむちゃんのそれっぽいブログ。








「ぶっは~。やっぱデカイ風呂はいいねぇ。アンタもそんなとこで何時までも身体洗ってないでこっち入ってきなよ」


 紹介された宿舎の地下にある大浴場の大きな湯船の中に浸かりながら一美は声を反響させながら言った。中は中型程度のデジモンくらいは入る事が出来る広さが在るため、其の中で小型のデジモンや人間が入るための湯船は小さく見えたがそれでもそれなりの広さを持っていて室内ではあるが実に開放的な空間になっていた。一美は例の如く多聞に漏れず頭に白いタオルを乗せていた。


「待てよ、こういうチャンスなんて滅多ねぇんだからしっかり洗っとかねぇと」


 祐梨は一美のいる湯船の目の前で身体に付いた泡を落としていた。連れてこられる前はなんだかんだと文句言っていたが広い良い感じの浴場を目の前にして満更でもない様子で出会ってから始めて女の子らしい綻んだ表情を一美に見せていた。


「な、誘いに乗って付いてきて良かったろ?」


 一美は広い湯船にはしゃいで其の中を泳ぎ始めた。早めの時間帯故其れほどデジモンが居る訳ではないが、浴場内にはまばらにデジモンがいる。しかしそれも気にせず一美は泳いだ。ちなみにそれは平泳ぎだった。


「そこは、確かにそうだけどよ…っつかお前はしゃぎ過ぎだろ。いまどき風呂で泳ぐ奴なんて見たことねぇぞ」

「まぁ、偶にはそんな奴もいるってことだって」

「知らねぇよ」


 漸く満足した祐梨が湯船にそっと脚を入れる。一瞬想像以上の熱さに驚いたが直ぐに身体に力を入れて湯船の縁の直側にある出っ張りに腰掛けた。


「うおっ。湯船に浸かるとどうしてこう唸っちまうんだろうな」

「知らねぇよ」


 祐梨が一人自分の行為を笑っていると一美が祐梨の物真似をしてそう言ってきた。祐梨は舌打ちをしたがそれ以上は何も言わなかった。


「そういや結局お前等は俺を如何したいんだ?また他の奴等みたいに仲間になれとでも言うのか?」


 まだ泳いでいる一美に向かって祐梨は言った。祐梨には今の状態が理解出来なかった。それは森で出会ってから今まで一美達は一切何を言うことも無く、ただ成り行きのまま現状に至っている感じがあったからだ。

QDCはデジタルワールドとリアルワールドの平和を保つ為に働く組織であり、当然未所属テイマーは保護すべき存在であるとしている。それ故これまで一美と出会ったというQDCのテイマー達は尽く一美を自分達の仲間へと勧誘してきた。しかし一美達は祐梨に特別何かを言わなかった。祐梨の質問はそれ故の質問だった。


「ん~、別にあたしらは絶対に勧誘しろって言われてる訳じゃないからねぇ、なんとも言わんけどな。ただユーリィが仲間んなりたいって言うなら大歓迎だし、ただ旅してるだけならあたしらん仲間になった方が面倒がなくて済むとは言えるかな」


 一美は泳ぎを止め少し考えてから言った。相変わらずのへらへらとした顔のまま一美は祐梨の目の前に座り首だけ湯船からだしていた。祐梨は湯船の其処に座っても背が高いと顔は出るんだなと思った。


「じゃぁ何で俺に付いて来いなんて言ったんだ?」

「危ないところに居たら保護しろって決まりだからねぇ、そこはまぁ。それにあたしとしては同年代の子で一人で旅してるテイマーなんて見たことないからさ、話聞きたいなぁって思って。ってかさ、何で旅なんかしてる訳?もしかして家出少女?」


 一美が好奇な目で祐梨を見て言った。祐梨はまた組み付かれたら困るとばかりに身を乗り出してきた一美の頭を押さえて湯船の中に押し戻した。


「別に事情はない。ただ面白そうだから色々やってるだけだ」

「何だよ、つまんねぇなぁ。じゃあお前等は何でこんな所にまで来てんだよ」

「まぁお仕事の関係ってやつですわ。このあたりもかなり物騒だからそれで特別対策本部ってのがPDPタウンに設置されることになって、それでアタシらは知り合いのよしみで其処に行くんだ。旅行は好きだから構いやしないけどな」


 ふくれた顔で一美は頭のタオルをお湯に浸して絞って顔を拭いた。そして身体を持ち上げて湯船の中の腰掛けに足を掛けると壁を蹴ってすーっと壁の方へ進んでいった。祐梨は少しそれを目で追うと持っていたタオルを気泡を作るようにお湯の上に浮べそれを手で丸く包んでクラゲの形を作った。


「アンタも大変だな」

「まぁね。でも此処の方がもっと大変だよ、デジタマが盗まれたのはそうだけどさ、其の少し前にもテイマーが森に侵入して追ってきた自衛団のデジモンを幾らも倒して逃げたとかいう凄いのもいたとか言う話なんだってさ。さっきシュン、ってあのユーリィがぶん殴った奴ね、アイツの付き添いで医務室行ったら其処のデジモンに教えて貰ってさ」

「はぁ、まぁ此処は迂回するにゃデカイ場所だからな。侵入した方が早く街とか行けるし。んで、そいつどんな奴なんだ?」


 祐梨はクラゲを持って一美に近づいてきた。


「あんまり詳しい話は分からないけど、フレイドラモンがパートナーなんだって」

「フレイドラモンか、大した事はねぇな。んでその奴の名前は?」

「やたら食い付くねぇ、聞いてどうすんの?」


 やたら興味をもった感じの祐梨を不思議に思った一美は聞いた。


「強い奴なら興味あるね。そういう奴は大体良い男だって決まってんだよ」

「何?じゃぁ彼氏居ないわけ?」

「ん?あ、いや、いねぇよ」


 急な一美の切り返しに祐梨は一瞬まごついた。それを見逃さず一美は更に言及を続けた。


「いねぇ、の前にいや、って言ったね。本当はいるんじゃないの?」

「…いねぇっての。いいから教えろよ」

「ま、浮気はばれなきゃ問題ないなんて格言もあるしな」


 にまっと悪い笑顔を浮べて一美は祐梨の肩を叩いた。祐梨は何を言うんだという顔をしたが多分此方の話は聞きもしないだろうと思って元の腰掛けの位置に戻ってふてくされてタオルのクラゲを弄った。


「エルトリオ・O・ローランド」


 祐梨はばっと顔を上げてタオルを掴んだ。クラゲが一瞬で潰れて気泡が水面に一斉に浮んでいった。祐梨の方へ近づこうとしていた一美はそのいきなりの反応に驚いて少し身を引いた。


「な、何だよ、エルトリオ、知ってんの?取り合えずこの辺りじゃその名前は有名らしいけど」

「…あ、エルトリオ、か。そっちの話か」

「ん?何何?ユーリィの彼氏もエルトリオって言うのかい?って言うか彼氏外人?」


 隣まで来た一美がまた好奇の目で祐梨に擦り寄ってきた。祐梨の小さな背に一美の高い身長は威圧的で祐梨は引き気味で顔を引き攣らせた。それを一美は肩を掴んで強引に自分の方に身体を向けさせた。


「どーなんだいユーリィちゃんよ」

「…違ぇよ聞き違えだよ。それも彼氏じゃねぇ、知り合いの、だぞ知り合いの」

「焦るところが、怪しい」

「うっせぇよ、余計なお世話だ」

「ちゃんと答えてくれないと組み敷くぞ」

「お前話題が下世話過ぎるんだよ!」


 陸上競技で鍛えた一美の腕力を如何にか無理やり振り払った祐梨はタオルを一美に投げつけた。それが見事に一美の身体に当たってペチンといい音が浴場中に響いた。しかし一美は怯まずタオルを身体から剥がして祐梨を追うように全身した。


「このタオルで縛っちゃおうかなぁ」

「お前の頭の中は何で出来てんだよこの痴女!変態女!」

「おうおう、そういうツンデレはそそっちゃうね」

「こっちくんな!それにツンデレってなんだ!」

「知らねぇの?今世の中は萌えってので一杯なんだってよ」

「訳分かんねぇよ!」


 祐梨が立ち上がって逃げると一美も立ち上がって追いかけた。一美は思い切り女王様をイメージしてタオルをまるで鞭のようにしてお湯をビシビシと叩いた。


「お前もういい加減にしろ!」


 これ以上は逃げられないと判断した祐梨は一美が隙だらけの間にお湯を掻き分け背後に回り肘をアームロックで極め首に腕を回した。一美は一瞬首に回された腕に手を伸ばしかけたが直ぐにそれを止めた。


「ギブギブ、極まってるよユーリィ」

「俺はそこそこプロレスも見てんだ」

「分かったから、ほらタップタップ」

「もうやってくんなよ、マジで」

「やらないから、ほら極まってるっての」

「ったく。今日初対面でなんだよお前」

「人の付き合いなんて年月じゃないぜ、なんつって」


 かなりむくれ気味の祐梨の掛けたがっちりの関節技を解かれて一息吐いた一美はおどけた調子で言った。反省の色は殆ど見られず隙を見せたらまたやってくるなと判断した祐梨は一美を無理やり湯船に座らせて一定の距離を保って自分も腰掛けた。


「本当に止めろよ、折角少しお前等の事手伝ってやろうかとでも思ってたのによ」

「え、何やっぱり仲間なってくれる?」


 祐梨の以外な言葉に一美は揚々として問い返した。勢いが余って湯船から立ち上がった。


「寄るなっ。仲間になるんじゃなくてあくまで手伝うだけだ。考えてみたらどうせ森の中で探し物をするって点じゃやる事は大して違わないし、俺も早くモノが見つかってくれりゃ助かるしな。でもやっぱり止めるか?」


 すっかりふてくされてそっぽを向いた祐梨は湯船の縁に腕を掛け足を投げ出して不満の意を大きく示した。そして抜け目無く祐梨が近づいてくると直ぐに抑制した。


「いいじゃん、どうせなら一緒の方が楽しいだろ?でもユーリィはパートナーいないじゃん」

「いるよ。ただ、呼ばれるまでは成層圏辺りでも泳いでるんだろ。用事がない時は自由にしていいって言ってるし」

「何だそれ。そんなとこで何してんだよ?」

「まぁ、そういう奴なんだよ」

「何にせよ手伝ってくれんだろ。そしたら改めてヨロシクなユーリィ」


 一美は祐梨に手を差し出した。差し出されたその手を訝りながら祐梨は一美の顔を見た。警戒されているなと分かって一美は頬を掻いてはにかんだ笑いを見せた。祐梨はそれに吊られて少し笑った。それから一美の手を掴んだ。


「んじゃ、話もまとまった事だし飯食いに出よう」


 手を引っ張って祐梨を起こし一美はそう言って湯船を出た。祐梨もそれに従って一緒に湯船を出たが、彼女にはそれより少し気になる事があった。


「やっぱりお前デカイな」


 祐梨は少しばかり溜息を吐いて一美の横を歩いた。




















素晴らしきサービスシーンである。こういうのも書いていきまっせ~。
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プロフィール

まいむ@ムーン

Author:まいむ@ムーン
現在21歳雄。偏屈で批判家のジョーカー。
性格、マメで粗雑。短気で気長。本人すら把握できず。身長、服屋のついたて鏡に入らない程度。体重、焼肉で米を大盛り2杯と普通一杯程度。
実写よりアニメ、特撮を見る。バラエティは情報系の方が好き。朝Φ新聞が嫌い。エノラゲイが嫌い。
音楽家、作詩家、小説家。いずれも毒々しい部分を持つ。最近の口癖は「ってな訳」「いやいや」「成る程」「1ミリもないわ」「鬱陶しい」
格好良くて優しい人を期待する方にはオススメできない商品。
宣伝鬱陶しい。

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