社会不適合なまいむちゃんのそれっぽいブログ。
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 一行は黙って差し出された紅茶を啜り目を伏せて身を縮こめていた。よりによって宿題を忘れた日の授業でやたらに宿題の答え合わせをする教師に指名されぬ様にアルケニモンから目を逸らしていた。しかしそんな時大抵は目を伏せたものから順に指名されるものだ。

 アルケニモンは顔も全身の雰囲気も全て恐ろしげで、座って紅茶を飲んでいるだけでシュン達を怯えさせるオーラをぷんぷん漂わせていた。特にコテモンの反応はあからさまで、先程まで興味津々で部屋の中をうろついていたと言うのに今はファングモンの後ろに隠れて丸まっていた。当然立場が下のシェイドラモンとクワガーモンも同様でアルケニモンの座る椅子の後ろでビシッと立っていた。


「黙ってないでなんか言いな」

「…えっと、上手い紅茶っすね」

「そういうこっちゃねぇだろ」


 緊張の中アルケニモンに話す様促された大輔は直ぐには何も考えが浮ばず答えに窮して適当に目の前の紅茶で誤魔化そうとした。得意の天然かと判断した一美は反射的につっこみを入れた。


「上手いかい?そりゃそうさ、家に置いてある物は何でも上等なもんだからね」

「これだったら俺はセイロンティーの方が好きだけどな」

「…ヒヨっ子に味なんて分かるのかい?」

「上等なもんは痩せた味がしないからな」

「痩せた味なんてガキが使う言葉じゃないね。まぁいいわあんた気に入ったよ」

「気に入られても別に嬉しかねぇよ」

「いいじゃん、人に気に入られるに越したことはないよ」


 アルケニモンはふっと微笑みを見せ紅茶を一口啜った。一美は祐梨の肩を叩いて笑った。祐梨はあまり気にせずふてくされた顔のままだった。他一同は相変わらずの定まらない顔のままだった。


「人身売買が成立してるようなところの奴とは別に知り合いになりてぇと思わねぇってこったよ」

「はっ?」

「へっ?」


 祐梨の声が聞き取りにくくて聞き返した訳ではない。質問の内容が分からなかった訳でもない。ただその質問の意図が分からず唖然として一行は声を出した。シュンが目を見開いて祐梨を見た。一美も同じ様に祐梨を見た。大輔は何の事だか分からぬ様子で全員の様子を窺った。義貴はアルケニモンの方を見た。アルケニモンは直ぐ口を開いた。口元は笑っていた。


「そんなとこも知ってんのかい?裏の話が分かってるなんて益々気に入っちまう」

「よくある話だろ。驚く程のことじゃねぇ」


 祐梨は組んでいた足を組み直し紅茶のカップを置いて腕を組んだ。含み笑いで挑発するようにアルケニモンを睨んだ。

 一行の視線は状況が読めずに二人の間を行ったり来たりした。全員に動揺が見られた。そしてそれは一行よりもシェイドラモンとクワガーモンの方が顕著だった。あからさまに身を乗り出して表情は引き攣っていた。その様子が祐梨の言葉がいかに重要なものかを示していた。


「何故、その様な事を…」

「何処で仕入れたネタだ」

「止めなアンタ達」


 アルケニモンは驚きの色から任務に忠実な兵士の顔に戻っていったシェイドラモン達を手で制した。今にも飛び掛って来そうな彼等は目の前に広げられたその手を見て戸惑いながらも一歩下がった。それでも合点がいかずに言葉が口を突いた。


「しかし、姐御」

「いいんですかい?」

「黙りな」


 アルケニモンは手を下ろして首だけ後ろを向いた。シェイドラモン達はそれに一瞬身震いし更に一歩下がった。アルケニモンはそれから笑って祐梨の方を見た。アルケニモンが口を開いた笑みを見せると其処には尖った歯が見えた。シェイドラモン達は元の様にビシッとした姿勢を保った。


「何処まで知ってるんだい?」

「ちょっ、待ってくださいよ。一体どういう話なんすか?」


 堪らなくなって大輔が口を挟んだ。祐梨はちらりと大輔を見た、それからアルケニモンを見た。それでアルケニモンには祐梨の言いたいことが伝わった。


「別に言っても構わないよ。あたしには全く関係ないしね」

「…でもアンタがここの頭なんだろ。そしたらアンタも関わってるってのが自然な筋だろ」

「まぁ、玉虫の坊やがなんて言ってるかは興味ないけどね、あんたが知ってる事をしてるのは坊やに付いてる奴と金が欲しい小僧共だよ。あたしは坊やがやる事には興味ないよ」

「成る程、な」


 祐梨は組んでいた腕を解いて紅茶を飲んだ。


「それでこれに毒も入ってなきゃ俺がデジヴァイス構えたのも無視したって訳か。じゃぁそれは信用してやるよ。…尤も、だからと言って此処に転がってる希少石の入手経路はどうなってるんだか分からねぇがな」

「そこはあんたが思ってるよりも色々手に入れる方法があるんだよ。全く、坊やと一緒にするんじゃないよ」


 アルケニモンは呆れ顔で髪を掻き上げた。祐梨のふてぶてしい態度は変わらず片肘をテーブルの上に乗せた。かなり挑発的と取れる態度にまたもシェイドラモン達が姿勢を緩め一歩前に出た。


「いちいちあんた達反応すんじゃないよ。このヒヨっ子はあんた達の反応を見て笑ってんだから。男だったらビッと立ってな」


 たった一歩の足音で真後ろに位置する二人の表情を読んだかのように軽い口調でアルケニモンは言い手を顔の横でヒラヒラさせて元の位置に戻るように促した。二人は出した足を引っ込めた。表情はそのままだったが。


「ちょっと…いい加減いいっすか?俺達も話、聞きたいんすけど」


 また置いてけぼりになった一行を代表して大輔は尋ねた。目線はアルケニモンだったが気持ちは祐梨の方に向いていた。出来ればこの目の前の恐ろしげな風体のデジモンが説明するよりもまだ人間の姿をしている人に言って欲しかった。

 他の一行は違うがかつて大輔は今と同じくらい印象の強いアルケニモンに出会った事がある。そちらは明確に敵として出会った相手で、性悪そうな顔をして性質の悪い事ばかりをしてきた。しかしそれにしてはどこか恐ろしさを感じられない間抜けなところがあった。

 目の前のアルケニモンはそれよりもずっと人間っぽく、言葉遣いは兎も角すっきりとした態度だ。しかし前のアルケニモンと違い、とげとげしい感じがないのにも関わらずとても脅威を感じる威圧感があった。究極体のデジモンに感じるそれに近いとも思った。大輔は自分が賢くない事を自覚していた。だからその感覚は正しいものだと思っていた。


「ひょっとして…その話ってのは研究所なんかに実験体としてここで捕らえたデジモンが売られるとかそういう話?」

「なんだい、あんたも知ってんのかい?」

「知り合いにそういうのに詳しい奴がいるんだよ」

「姐さん、それ如何いうこと?」


 一美に便乗してそれまで黙っていた義貴が口を開いた。身を乗り出しシュンの向こうにいる一美を見た。一美は義貴を見返した。義貴の目はとても真面目だった。


「そんなに、詳しくは分からないんだよ。そこはユーリィに任す」

「俺かよ。ったくあんま分からねぇならでしゃばってくんなよ」


 祐梨は面倒くさそうに舌打ちをして頭を掻いた。


「早い話、此処の連中は森の中に侵入されるのを嫌って警戒してるんじゃない。寧ろ歓迎してるんだよ、金になるから」


 指で円を作る。それを見せびらかすように振って懐に仕舞う素振りをして手を広げて肩を竦めた。


「こんな原始的なところで特産物もそれどころか他との表立った交流もねぇのにあの集落にある程の物をそろえるとしたらヤバイところに人手を貸すか売るかのどっちかしかないんだよ。そんで丁度良くここは迂回して回るには広いし、裏のルートに繋がりやすい道の上にあるし侵入者が後を絶たない。そしたらそれを捕まえて売っちまえば五月蝿い小物も厄介払い出来るし金も入る。


 更に言えばこんだけ多種のまとまりのない団体がいるのにも関わらず侵入者を一致団結してまで捕まえようとしてるってのは、多分小さい団体じゃ信用度が足りなくてデジモンを売れないからか、あの集落の自衛団がその辺りのことも仕切っているかのどちらかだ。だろ?其処の赤いの二人」


 祐梨はどかっと背もたれにもたれかかり顎でシェイドラモン達を指した。これまでの行動で分かる通り二人はかなり素直で実直な性格だ。今度もまた明らかに小さく抑えようとした動揺が見られた。動揺を抑えようとしたのはアルケニモンに一々反応するなと言われたからだろう。


「それは…ですね」

「答えるのを期待したわけじゃねぇから無理に何か言わなくてもいいぜ。グダグダ言われるのは嫌いだしな」


 自ら話を振りながら祐梨は手を翳してシェイドラモンが口を開くのを阻んだ。祐梨はデジヴァイスを取り出した。スライド式の携帯の様な形状の真っ赤なデジヴァイス。祐梨は画面を開いた。デジモンの反応を示す分布図だった。


「多分侵入者を捕まえた奴には一定の褒賞金が支払われるんだろうな。面倒な事なしに金が手に入るってのは魅力だろうしよ。んで、だから今問題が起きてるんだろ?金で繋がってる関係な訳だから金で断ち切れる。

タマゴ泥棒が金で匿うように言ってたら今の自衛団の人数では対処出来ねぇ。というか十中八九今はその状態だと思うぜ。ちょっと反応を見るだけでこれだけ夥しい様になるんだからこれで全員がチームワーク取れてるんだったらもう確実に何処にいたって情報くらいは入ってていい筈だからな。

だから本当に力を持ってて顔が利くっつーのこの婆さんに人手を貸して貰うように頼んだ。自分らで行かないのは多分威厳が無くなるからだろうな。要するに自分で解決出来ないのを広めるような事なんだからよ」


 祐梨は含み笑いでシェイドラモン達を睨んだ。はっきりと挑発していた。虫の持つ特徴のある口をカタカタと震わせていたがそれでも飛び掛っては来なかった。やはり実直である。


「アンタ、それは聞き捨てならないね」

「事実だろ」

「あたしゃまだ婆じゃないよ。二百ちょっとしか生きてないんだから」

「そっちかよ!人間の方からしたら婆だっつの」

「ったく生意気なヒヨっ子だよ本当に」


 アルケニモンは紅茶のポットを取って自分のカップに注いだ。


「ちょっと待てくれ。売られたデジモン、ってどうなるんすか?」


 大輔は急に立ち上がって食いかかる様に言った。テーブルがガタっと揺れ紅茶に波が立った。感情の昂ぶりからか不慣れな丁寧語に可笑しい点も見受けられた。それに気付いているのか分かっていないのか祐梨はその事には触れなかった。


「なんだ、聞きたいのか?後悔するぜ」

「俺は後悔しない性質なんです」


 祐梨の問いかけに胸を張って親指で自分を指して自信有り気に大輔は返した。一美が小さく阿呆かと呟いた。


「殺されるんだよ」


 間を置かず呟く様に言った。一行の顔が一気に凍る様に固まった。


「武器の試し撃ち、毒の耐性の検査、強制進化、研究実験体との対戦。それに賭け格闘技とか強制労働もだな。もっと詳しく話しするとかなりエグい事になるぜ?それでも聞くか?」


 下世話な笑顔で身を乗り出し祐梨は大輔を指差した。大輔は小さく言った。


「なんだよ、それ…」


 大輔は目を伏せ拳を握った。祐梨を睨んで歯噛みした。


「なんでそんな事すんだよ…」

「勘違いするなガキ」


 口の端が吊り上がったままの祐梨が立ち上がり直ぐ隣の大輔に顔を近づけ睨みを利かせる様に下から睨め上げた。シュンは其処に参加して止めるかどうか迷ったがその決断を出す前に祐梨が続けて言い放った。


「人から見たら悪いことなんてのは何処にもあるんだよ。そういった事をするクズを俺は嫌いだがな、何もしてねぇ手前が怒るんじゃねぇよ」

「デジモンが大勢死んでんだ!腹立つに決まってんじゃないすか!」

「そこで殺されたデジモンが大量に人を殺してるとしてもか?」


 大輔の憤慨した表情とは対照的に何でもない冗談でも言うかのような祐梨は右手で左手を切る仕種をした。大輔は祐梨の言葉に息を飲んでたじろいだ。そしてそれは他の者も同様だった。次々と自分の知らなかった事がテーブルの上に並べられていく。その衝撃に一行は混乱気味に祐梨を眺めた。


「此処を通り道にする人間は二つに一つ。よっぽどの世間知らずか、此処の連中の様にデジモンを売る様な奴らか。馬鹿が馬鹿を駆逐してんだよ。どこもかしこも腐ってるんだよ。一つ流れを止めたからって他も止まって全部よくなるって訳じゃねぇんだよ。そうやって滞って腐った水がまた他の土地も腐らすんだよ。止めたいなら根本から如何にかしてみろ。自分の立った場所がどんなところも知らねぇで粋がってんなガキが」

「んなこと分かんねぇよ!それに目の前にある危ねぇことを放っといて他の事をするなんて俺には出来ねぇ。出来る訳ねぇ」


 一層声を荒げる大輔の言葉を祐梨は鼻で笑った。目線は見上げていたが態度は見下していた。しかし一行には決して祐梨が間違っているとは思えなかった。それは確かに正しい事で的を射た意見だった。しかし感情論とはいえ大輔の言う事も理解出来た。どちらが正しいとも一行には言えなかった。


「まぁ二人共さぁ…」

「グルルルゥ…」


 一美が仲裁に口を開いた時にファングモンが一際大きな声で唸った。それまで伏せて様子を窺っていたのに、側にいたコテモンが驚く程の勢いで立ち上がり瞳に野生の獣らしい色を浮かべてテーブルの方を見て唸っていた。一行は一斉にファングモンの方を見た。穏やかに閉じている様な印象すらあったファングモンの目が今は大きく開かれて一行の姿を捉えていた。


「ファングモン、どうした?」


 義貴は長いソファを越えてファングモンに駆け寄った。大人しいファングモンがこれだけ牙を剥き出して威嚇することは普段ない。それがこれだけ牙を剥くというのは義貴の知る限りある一つの事がある時にしかない。それは即ち、


「デジモン反応?」

「周囲にある反応は全部点滅してッスよ。それに此処にもあるッス」


 そう、敵のデジモンの存在を感知した時だ。元々が群れで暮らす種族のファングモンは他のデジモンよりも索敵能力の精度が高い。群れを危険に晒さぬ為には何より先ず敵の襲来をいち早く知る事が大切である。先手を打てれば敵を退ける事も此方が引く事も幾らかは容易くなる。生き残る為に磨かれたその能力をしっかりと受け継いで生まれたファングモンは仲間の中では誰よりも早く、風下等場所によってはデジヴァイスよりも早くデジモンの存在を感知することも出来た。

 一行は一斉にデジヴァイスを取り出し画面のデジモン反応を確認した。夥しい数の赤い点が点滅し画面を埋め尽くすように広がっていた。アルケニモンは紅茶を啜っていた。


「ファングモン?」


 唸るファングモンに近づいて義貴は些か不安げな声をファングモンに掛けた。ファングモンは義貴が近づいてくるとブルブルと頭を振って義貴を遠ざけようとした。デジモンの反応を感じているとはいえ此処まで激しく反応する事などそうはない。異常なまでにファングモンが反応していることが義貴には不安だった。経験が無い故に内心は余計に不安になっていった。差し伸べた自分の手を振り払ったファングモンの動きに義貴は自分が思っている以上に退いた。

 冷静に考えればそれが極近くに脅威が迫っている事をファングモンが言っている事に気付いたが義貴はそれまでの会話を聞く中で少なからず困惑していてそれに気付かなかった。

 祐梨の話は義貴を混乱させた。本人にその狙いは無いにせよ義貴の思考を鈍らせるには十分なものだった。

 祐梨の言った事はそれまでQDCで言われてきたことと全く逆の事で義貴が信じていたものにまさに直撃するような事だった。ナスティフォレストが治安の悪い場所だという事は当然知っていたがその中に中立的な立場の自衛団は提携を結ぶべき存在で共に力を合わせるべきものだと思っていた。

しかしその実質が世界を混乱に貶める行為に加担しあまつさえ多くのデジモンを死に至らしめている。盗まれたデジタマを取り戻す為とは言えそんな集団に力を貸すのは自分も世界を混乱させる行為に加担する事になるのではないか。そういう思いがその時に義貴の頭の中を駆け巡っていた。

 聡明であるという事は同時に苦しい事でもある。物事の本当の部分というものは大抵は苦痛に満ちた物であり知らなくていい物だった。しかし賢い人間は直ぐにそれを分かってしまう。そして義貴は聡明だった。祐梨の言った事の殆どを理解出来た。そして祐梨が一行を見る目つきで祐梨の行動に一つの疑惑を抱いた。

祐梨はただ不満を延べているのではなく、自分達にそれでもこの自衛団に力を貸すのか、と。確信は無かったがこれまでではっきりしている祐梨の性格を考えるとそう思っていても不思議ではないと感じていた。

 大輔はあっさりと自分の信念を貫くと言ったが、義貴はその言葉を聞いて漠然とした不安を感じた。何故そう感じるのか、そもそも感じているのかももしかしたら分かっていなかったのかもしれないが何か自分の中にもやもやとしたものがあるような気がしてならなかった。


「ガウワッ!」


 困惑したままの義貴の頭を飛び越えファングモンはテーブルにストッと乗った。そして目の前に大きく吠える。そして一行がその行動の意味を分からぬままファングモンは牙を剥き飛び掛った。


「ファングモン!」


 ファングモンの牙はシェイドラモンの腕を捉えた。先に襲い掛かった爪をガードした腕を噛みつかれたファングモンはしかし表情を変えぬまま腕を振りファングモンを地面に叩き付けた。ファングモンはシェイドラモンが腕を持ち上げた瞬間に攻撃の予兆を悟り噛み付きを止めシェイドラモンの腕を離れようとしたが完全に脱しきれず背中から地面へ激突した。それでも次の瞬間には猫並の三半規管の能力の高さを見せ一瞬にして体勢を天地入れ替え部屋の脇の方へ着地した。

 ファングモンが顔をあげる前にその耳にクワガーモンの大袈裟な羽音が届いた。ファングモンは天井近くまで跳びあがった。貫くようにクワガーモンの二本の角がファングモンの影の上を通過しアルケニモンの糸で形造られている小さな棚諸共壁に突き刺さった。室内に収まるにはやや巨体なクワガーモンが薙ぎ倒した棚やテーブルの上の品が散乱した床に着地した。


「お前等伏せろ!」


 目の前の光景を理解できずただ傍観していた一行に一美の怒号の様な叫び声が飛んだ。年長者の経験の功か一美は精神が混乱した時に起こる浮遊感を感じながらもクワガーモンの動きに惑わされる事なくシェイドラモンがエネルギーを両腕に溜めているのを認識した。そして無意識のまま叫び自分は机の下へと潜り込んだ。


 一美は気付かなかった。否この状況では自分の後ろの事になど気付ける筈がなかった。一美の声で目の前の景色に気付いた一行は揃って机の中に潜り、またその場に身を伏せた。しかしただ一人義貴だけはそこに立ち尽くしていた。義貴には殆どファングモンの動きしか見えていなかった。

ファングモンの起てる足音しか聞こえていなかった。シェイドラモンの腕が一層光るのを義貴は認識していなかった。一美がシェイドラモンの様子に気付いた時は後ろを振り返る余裕は無かったし、伏せてからは三百六十度が死角で当然気付けた筈がなかった。


「ガキこの野郎!」


 シェイドラモンの腕から放たれた炎はレーザー状に放たれ熱を拡散させながらテーブルの上のコップやティーポットを砕き壁に衝突した。砕けたコップの破片は高い熱で表面が溶けかけていた。


「なんだいアンタ達」


 炎を放ちきったシェイドラモンの真後ろからアルケニモンはその頭を大きな手で掴んだ。シェイドラモンが振り向こうと抵抗の意思を見せるとアルケニモンは頭を地面に押し付け手の甲の蜘蛛の紋章の中心の赤い紅玉から水が湧き出るように糸が溢れシェイドラモンの全身に絡みついた。それはあっという間にシェイドラモンの全身に広がりさながら簀巻きの様にシェイドラモンを包んだ。

そして余っていた片手をクワガーモンの方へ翳し糸を放った。その糸もシェイドラモンの時と同じく一瞬のうちにクワガーモンの全身に絡みついた。

 アルケニモンは腕を引いて自らの四、五倍はあろうかというクワガーモンを自分の方へ引き寄せた。アルケニモンは真っ直ぐ自分の方へ引き寄せたつもりだったが壁に突き刺さっていた角が突っ掛かりアルケニモンの意図していた方向からずれ天井と床へバウンドする様に二往復ほどぶつかりながらアルケニモンの糸により手繰り寄せられた。

アルケニモンはクワガーモンの首と胴体の接合部の隙間を目掛け手刀を叩き込んだ。クワガーモンは殆ど抵抗する間を見ることなくそのまま床へと倒れ込んだ。


「暴れるならもっとマシに暴れなよアンタ達」


 状況はあっさりと打開されることになった。一美が周囲の状況に気付きそれでも様子を窺う為にゆっくりとテーブルの下から顔を覗かせた時にはもう床に伏せっているシェイドラモン達と手の甲から発せられる糸でコップの破片等を片付けているアルケニモンの姿が窺えた。

 一美が分かる限りアルケニモンはファングモンがテーブルの上に飛び乗った時も、シェイドラモンに飛び掛った時もシェイドラモンが炎を放とうとした時も、自分がテーブルに隠れるまでは椅子の上で紅茶に口をつけているだけだったように感じる。殆ど意識なく動いていたためそれが確かだという確信はないが少なくともテーブルから離れていなかっただけだった筈だ。

 一美が気付いてからシェイドラモンの炎が放たれるまで二、三秒あるかないか、その程度の時間だったにも関わらずアルケニモンはダメージを追った様子もなく更には今彼等の動きを封じていた。一美からしてみればそれは殆ど瞬間移動に近い速度だった。流石に自衛団の隊長であるジュエルビーモンが適わないと言うだけのことはある。

 そう考えたから一美ははっと気付いた。とっさの事で忠告するだけで精一杯だったが先の一撃を避けきれず負傷した者がいるかもしれない。一美は机の下の仲間を見た。祐梨と義貴がそこにはいなかった。一美はテーブルの横に出て立ち上がり周りを見た。椅子の後ろ側で義貴とその上に覆いかぶさる様にして祐梨は伏せていた。


「びびったぁ、マジびびった」


 机の横から這い出し呟くシュンを無視して一美は祐梨と義貴の元へ駆け寄った。


「ヨッシー、ユーリィ大丈夫?」


 祐梨の背中には大量のコップの破片が降り注いでいた。白衣の裾は炎を掠ったのか三分の一程が無くなり端が黒く縁どられていた。一美は祐梨の背中の破片を裾を持ち上げて払い祐梨を抱き起こした。


「ユーリィ怪我はないかい?」

「あの程度で怪我してたまるかっつんだよ」


 祐梨は一美を押し退け身体に残っている破片を払い


「それよかよ、ガキこの野郎」


 祐梨は起き上がろうとしていた義貴の胸倉を掴み自分の方へ引き寄せた。義貴は急に引っ張られて膝立ちのままよろめき祐梨の近くへ引き寄せられた。


「なんだよユーリィちゃん、ヨッシーがどうしたのさ」

「ボケッと突っ立ってねぇで周りを良く見やがれ。お前の脳みそは腐ってんのかこの野郎」

「ちょいちょいユーリィ、どういうことさっての」

「どうもこうもあるか!この野郎自分の相棒に気を取られてお前の忠告も耳に入って無かったんだよ。俺が飛び掛って無理やり倒さなきゃ今頃はこの破片みてぇになってたんだぞ!惚ける奴はな、戦場じゃ真っ先に死ぬんだよ。どんなに強くてもだ。分かってんのかこのクソガキ!」


 祐梨は義貴を揺すり怒りを露わにして叫んだ。部屋中にびりびりと響くほどの大きさで義貴の耳を劈く様に飛び込んできた。


「すみません」

「謝るんじゃねぇ。俺の問題じゃない、手前の問題だ。生きていたいなら考えるのを止めんな。馬鹿になるな」


 祐梨は義貴を突き放して苛立たしそうに床を殴りつけた。床は祐梨の拳と受け止めて沈み、拳が離れてからゆっくりと元の平坦な床に戻った。


「なんだ、じゃぁユーリィがヨッシー助けてくれたんだ。あんがとねぇ」

「おわっ、止めろ手前」


 一美は祐梨と義貴の間に入って両者の肩に腕を回して抱え込んだ。義貴は無抵抗でされるがままだったが祐梨は一美を振り払おうと一美を腕を掴んで暴れた。


「一々絡んでくんなお前は」


 一美を振り払って祐梨は溜息を吐きながら呟いた。それから白衣を脱いだ。そして短くなったそれを見て渋い顔をするとポケットを探り棒付き飴と赤いパッケージの煙草を取り出した。そして暫く両者を見比べ迷った末飴の包みを剥がしてそれを口に放り込んだ。そして煙草はデジヴァイスを取り出しその中に収納した。


「ところでこれ一体どういう事なんすか?」


 机から這い出して周囲を見回した大輔が周囲を見回して呟いた。祐梨はそれを聞いて頭を掻いて飴を口から出して言った。


「このチームは馬鹿しかいねぇのかよ」


 そして頭を抱えて再び飴を銜えたその手つきはまるで煙草を吸うかの様だった。










デジモンウェブで皆様に産んでいただいた子達は扱いが難しくもあり面白くもありQDCを書く上で一つの活力となっております。どうもです。
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プロフィール

まいむ@ムーン

Author:まいむ@ムーン
現在21歳雄。偏屈で批判家のジョーカー。
性格、マメで粗雑。短気で気長。本人すら把握できず。身長、服屋のついたて鏡に入らない程度。体重、焼肉で米を大盛り2杯と普通一杯程度。
実写よりアニメ、特撮を見る。バラエティは情報系の方が好き。朝Φ新聞が嫌い。エノラゲイが嫌い。
音楽家、作詩家、小説家。いずれも毒々しい部分を持つ。最近の口癖は「ってな訳」「いやいや」「成る程」「1ミリもないわ」「鬱陶しい」
格好良くて優しい人を期待する方にはオススメできない商品。
宣伝鬱陶しい。

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